吉原のど真ん中 家賃5万3700円に住む61歳「山谷のおくりびと」 毎日寝たきりも「希望はある」
「きぼうのいえ」創設者
山谷にマザー・テレサの「死を待つ人の家」の日本版として、ホスピス「きぼうのいえ」を創設したが、そのスタッフから理事長職を解任された山本雅基氏(61)。身寄りのない高齢ホームレスら約270人を介護し看取ってきた山本氏は出て行った愛妻も戻らないまま、要介護の独居老人となって愛猫と暮らしている。(全4回の第2回) 【写真】家賃5万3700円…吉原のど真ん中にある1Kマンション。山本氏の家の中、実際の様子。愛猫の姿も ***
「親族では姉がいるけど、ずっと絶縁状態だから、身寄り はないも同然だよ。『きぼうのいえ』に入居しないのかって? 無理無理、絶対に入れてくれないよ」と明るく笑い、一切ヘルプもないというのに「頑張って欲しいね」と続ける。自らはひとりでの外出も控えるように言われているそうで、半ば寝たきりである。 「建築家が自らの作品でもある建築物に執着しないように、僕も(『きぼうのいえ』に)執着しちゃだめだと思ってる。それに人をいじめたりするのって僕は大嫌い。ゴキブリも殺せないんだから」 秋の昼下がりの陽光もカーテンで遮断し、窓も閉め切っているため、部屋は埃っぽい上、湿度が高く、むわっとしている。 「エアコンをずっとつけて、除湿にしてるんだけど、あまり乾燥させすぎるといけないの。カーテンを閉め切ってるのも、たとえば作曲家の團伊玖磨さんもずっと薄暗い部屋に閉じこもって作曲していたというし、そういう人もいないわけじゃないみたいだよ。同じ作曲家でもフランスのラヴェルは太陽光の下で作曲していたというから、人それぞれだけど、僕はたまに散歩しているから大丈夫」 いわゆる吉原のど真ん中に住んでいるのは、家賃が安価だからだそうだ。1Kの部屋は毎月の家賃5万3700円。光熱費も医療費も食費も生活保護の援助でまかない「ありがたい」と言うが、まだ61歳。毎日寝たきりで寂しくないのか。 「全然。社会貢献者表彰をいただいたお金でこんな大きなテレビを買うことができたし、つながらなかったパソコンもさっき業者さんを呼んで、つないでもらえた。ネットでショパンやチャイコフスキーとかベートーベンも聴けるし、大画面で映画も観れるしね」 液晶モニターには「ローマの休日」が映し出され、オードリー・ヘプバーンがジェラートを手に微笑んでいる。部屋には図書館で借りた映画のDVDもあり、好きな作品を聞くと映画「砂の器」、遠藤周作原作の「わたしが・棄てた・女」を挙げ、「かなしい立場にいる人の気持ちを大切にしたいと思っているから」と言う。太田裕美の「木綿のハンカチーフ」など青春時代の歌謡曲を聞き直したりもしているそうだ。