「クレヨンしんちゃん」からヒントを得た…「6年で年商43億円」30歳社長が作ったアパレル会社が急成長するワケ
■クリエイティブとは「受け手の心に響く」こと 【澤円】最後に、いまyutoriは「若者帝国をつくる」というビジョンを打ち出していますよね。ある記事では、「若い子の『好き』と『熱狂』が溢れ、それを商売にし続ける」と述べておられますが、このビジョンについてぜひお聞かせください。 【片石貴展】わたしは、クリエイティブであることは、なにかをつくるのが上手だったり巧みだったりすることとはあまり関係がないと思っています。それよりも大切なのは、受け手の「心に響く」ことです。 例えると、足が遅い人でも、必死に努力してフルマラソンを走り切れば、心を打たれますよね? そんな感覚に近いかもしれません。もちろんビジネスですから、テクノロジーなどを活用し効率を追求する必要はあります。でも、その結果つくったものが受け手の心を打たなければ、それはクリエイティブとはいえないでしょう。 では、なにがクリエイティビティーを生み出すのかといえば、やはり、つくり手が持つ初期衝動のエネルギーです。そのうえで、ひとつの会社で100という日本一のブランド数を持つのなら、それだけ多種多様な若者の「好き」と「熱狂」が渦巻く特殊な会社空間であるはずです。 そんなファッションを軸にしたクリエイティブで、若者たちが熱狂を生み出し続ける空間を、「若者帝国」と名づけてビジョンにしたというわけです。 ■クレヨンしんちゃんの映画に発想を得た「若者帝国」 【澤円】それにしても、「若者」+「帝国」とはすごいパワーワードですね。 【片石貴展】ちょっと厨二病っぽいうたい文句ですよね(笑)。でも、この言葉が多くの若者たちに、高揚感を伴って広がっていくといいなと思っています。 実はこれ、映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』からインスピレーションを受けているんです。大人だけの楽園「オトナ帝国」の建設をたくらむ組織と、しんちゃんたちが対決する筋書きですが、あの映画が大好きで。むしろ「オトナ帝国」側に溢れる、20世紀の匂いや思想の方に共感していたのですが、「若者帝国」を目標としました。 【澤円】素敵ですね。わたしは基本的に創造性に満ちた起業家の人たちを、そのなかでも「うわ、よくやるなあ!」と感じる人に会うと、とても応援したい気持ちになります。正直なところ、アパレル業界って大変ではないですか? 【片石貴展】それはもう、めちゃくちゃ大変ですね……(苦笑)。 【澤円】「うわ、よくやるなあ!」という姿と勢いのまま、今後も挑戦し続けてください。応援しています。 ---------- 片石 貴展(かたいし・たかのり) yutori代表取締役社長 1993年、神奈川県生まれ。ニックネーム「ゆとりくん」。「9090(ナインティナインティ)」「Younger Song」「PAMM」など、2024年時点で約30のアパレルブランドを展開し、独自のSNSマーケティングによって創業わずか6年で年商43億円を達成。2020年7月、ZOZOグループ入りを発表。2023年12月、ZOZO傘下を離れ、アパレル業界では最年少&最短で東京証券取引所グロース市場に上場を果たし話題になった。今後5年で100ブランドまで増やすことで「日本で一番ブランド数が多い会社」として成長し、若者の好きや熱狂が溢れる「若者帝国」をつくるというビジョンを打ち出している。 ---------- ---------- 澤 円(さわ・まどか) 圓窓 代表取締役 1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。 ----------
yutori代表取締役社長 片石 貴展、圓窓 代表取締役 澤 円 構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=辻本圭介