「クレヨンしんちゃん」からヒントを得た…「6年で年商43億円」30歳社長が作ったアパレル会社が急成長するワケ
■一般社員は作家、幹部社員は編集者 【澤円】強靭な組織をつくるにあたり、権限委譲は重要なキーワードですね。yutoriでは若者たちにどんどん権限を与えているとのことですが、彼ら彼女らを束ねるリーダー職やプロデューサー職はどのようなあり方なのでしょうか? 【片石貴展】わかりやすく例えると、いわゆる一般社員にあたる「メンバー」は作家、「リーダー」や幹部社員にあたる「プロデューサー」は編集者という解釈をしています。メンバーは、できる限り自分の衝動に素直に、作家として思い切り活動してほしい。リーダーやプロデューサーは、それをビジネスとしてかたちにしていく編集者の役割だというわけです。 そのため、権限移譲の先に生じる行動の振り返りや、体験から学ぶ方法などは、その都度リーダーやプロデューサーが提供するようにしています。やはり自分を正しく見つめたり、客観的に捉えたりすることには、経験豊富な人たちのアドバイスが助けになるからです。メンバー自身が気づきにくい強みや良さなどを、経験と共に伝えることを意識しています。 yutoriは創業当初より、100ブランドを保有することを前提に事業を展開してきました。その目標を達成するには、メンバーである若者たちの「初期衝動」のエネルギーを価値の源泉とし、それらを巧みかつ継続的にビジネスに紐づけていく必要があります。そのためには、まず若者たちが自律的に行動できる必要があると考えています。 ■「ハラスメント」「多様性」という言葉が若者の成長を阻害する 【澤円】権限委譲が活発な組織は、昨今よくいわれる組織の「心理的安全性」とも親和性があると感じます。「自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」を意味する言葉ですが、これについての考えをお聞かせください。 【片石貴展】組織の「心理的安全性」は、かれこれ10年ほどいわれていますね。でも、いまだにいわれているということは、解決が難しい課題でもあるということを意味しているのだと思います。一般的には、職場のハラスメントの問題とともに広く知られるようになったと認識しています。 それに関して、実はインターネット番組「ABEMAヒルズ」に出演した際に、ハラスメントに対するわたしの発言がSNSで拡散され話題になったことがありました。「いまの世の中には責任感がない。『○○ハラスメント』や、表面的な『多様性』といった言葉が好きなように解釈されてひとり歩きしている」といった主旨の発言をしたのです。 同じことが「心理的安全性」にもいえるのかもしれません。心理的安全性を推進するという空気感のなかで、例えば上司は怒るに怒れなくなり、楽して働きたいという部下は都合よく解釈している面もありますよね。そうした流れのなかで、仕事にフルコミットし、人間的に成長したいと考える若者たちが、それをしづらい環境を強制されている面もあるのではないかという指摘です。 若いときはエネルギーもあるし、yutoriで働く若者たちも猛烈に自分の好きなことに向き合っています。そんな姿を見ていると、仕事に懸命に打ち込むことで人は成長していくという感覚があるのです。 【澤円】ハラスメントは言語道断です。しかし、「心理的安全性」を盾にして一律に残業を禁止したり、ハラスメントを拡大解釈したりするのは違うのではないかということですね。 【片石貴展】はい。そうした動きによって、働く人の人間的成長が軽視されるのはおかしいのではないかということです。 もちろん、懸命に働きたくなければ働かなくていいですし、これは個人が選択するトレードオフの問題だと考えています。つまり、自分の選択を自分で受け入れるかどうかの問題だということです。でも、表面的な理解だけで「心理的安全性」や「多様性」をなんとなく是とするような空気感には違和感があります。