[懐かし名車] マツダ サバンナRX-7(SA22):逆風の中で生まれた“ロータリーロケット”
中東戦争によるオイルショックから発生した「燃費問題」 そのスケープゴードとなったロータリーエンジン
ところが、1973年に勃発した中東戦争を引き金に起こったオイルショックで原油価格が高騰すると、それまでガソリンをがぶ飲みする5L/6Lの大排気量車を愛用していたアメリカ人が、急に燃費を意識するようになる。そのタイミングに合わせたEPAのステートメントは、ビッグ3が造る大排気量車の燃費から目をそらさせつつ、急激に勢力を伸ばしてきた日本車をけん制するための、いじめにも似た政治的攻撃とも言えた。 そうして、パタリと売れ行きが止まり、在庫の山を抱えたマツダでは、ひとつの商品企画がお蔵入りを余儀なくされた。1970年から検討されていた、コスモスポーツの後継車となるロータリーエンジン専用スポーツカーの企画だ。アメリカ発のロータリーエンジンへの燃費攻撃は日本にも飛来し、ロータリーの“ガス喰い”という悪評はたちまち定着してしまった。 のちにマツダ社長となる山本健一氏を始めとする開発陣は、「フェニックス計画」と名付けてロータリーエンジンの改良に取り組み、数年のうちにはじつに40%もの燃費改善に成功するのだが、時すでに遅し。実用モデルに関しては、レシプロエンジン車をメインに商品構成を再構築するしかなかった。 ◆S53年排ガス規制にも適合した12A型ロータリー:日本版マスキー法といわれた厳しいS50年規制の後も排ガス規制強化は続き、この頃国産のスポーツエンジンは次々カタログから消えていった。そんな中、NOx排出量が少ないロータリーは排ガス浄化がしやすく、RX-7はサーマルリアクター方式にEGRバルブを装着しただけで昭和53年規制をクリアしている。
ポルシェの性能を持つ本格的なスポーツカーを実用車並みの価格で提供した初代サバンナRX-7
しかしマツダは、ロータリーエンジンを諦めたわけではなかった。山本ロータリーエンジン開発部長は「ロータリーで失った地盤はロータリーで奪い返す」と決意を口にし、開発陣は燃費も動力性能もたゆまず磨き続けた。 そうした努力が報われるきっかけは、1975年に行われた北米の市場調査の結果だった。商品企画担当者らが自ら現地に飛び、ユーザーからの直接の聞き取りなどで得たデータは、それまで国内だけで考えていたユーザー像とはまったく異なるものだった。 当時、日本ではスポーツカーとは限られた若者の乗り物と考えられていた。それを求める人はレースなどに興味を持ち、ともすれば公道でも飛ばす暴走族と見なされることさえあった。作り手だけでなく、多くの国民や行政もそうした見方をしていたために、スポーツカーを堂々と名乗るクルマの販売は憚られる状況だったのだ。 ところが、北米のスポーツカーユーザーは違っていた。2人乗りでもおもな使い方は通勤や通学であり、ユーザーの半数は女性。年代も幅広く、購入時には価格を重視する一方で、高性能への憧れも強く、多くの人がいつかはポルシェに乗りたいと答えたのだ。 すなわち、ポルシェの性能を持つ本格的なスポーツカーを実用車並みの価格で提供できれば、大きな成功が約束される。そして、その商品企画の実現には、小型軽量で高性能なロータリーエンジンはうってつけだったのだ。 オイルショック後の経営不振のために銀行から受け入れていた経営陣も、マツダの独自技術であるロータリーエンジンの特性を生かした企画に賛同した。そうして、開発は急ピッチで進み、本格的な設計着手からわずか1年3か月で量産にこぎつけたのがSA22型初代サバンナRX-7だ。 スポーツカーが色眼鏡で見られていた当時の日本では、2シーターは運輸省も認可しないという悪者扱い。そこで海外では2シーターと割り切った流麗なシルエットの中に、日本向けは狭いながらも後席を備えた2+2とした。 当時の海外向けのロータリーエンジン車には、初代カペラ(RX-2)/初代サバンナ(RX-3)/2代目コスモ(RX-5)がラインナップされていたが、開発コードX605のロータリー専用スポーツカーは、ラッキー7を当て込んで「RX-7」と命名された。本物のスポーツカーのフォルムと性能を大衆車の価格で実現させたRX-7は、日米双方の市場で数か月分のバックオーダーを抱える爆発的な人気を呼んだのだ。 ◆イメージカラーのマッハグリーンはチェック柄のベージュインテリアを採用。スポーツカーというより、スペシャリティカー/セクレタリーカーといった印象だ。 ◆シートは乗り心地を重視した設計とし、女性ユーザーも選びやすい明るい基調のデザインを採用する。 ◆元々は2シーターとしてデザインされたボディだが、国内向けにリアシートを増設し+2としたため、お世辞にも広いとは言えない。 ◆リヤはフレームレスのガラスハッチを採用する。 ◆当初のデザインでは固定式のヘッドランプが搭載されていたが、最終的にリトラクタブルライトが採用された。 ◆スポーツカーのシルエットを纏いながら、女性でも乗りやすいクルマを目指し、AT仕様もラインナップされた。 ◆電圧計が一体となったタコメーターを全グレードに標準装備。電圧計はイグニッションONで針がふれ、バッテリーの充電状態を知らせる。その横の3連メーターの左端は時計(リミテッドはクオーツ式、ほかは電動式)/燃料計/水温計のコンビメーターとなる。 ◆フェンダーミラーは、運転席から角度が調整できるリモコンミラーを採用。今でこそ、ほとんどのクルマに装備されているが、当時としては上級グレードにのみ設定できた装備だった。
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月刊自家用車編集部