都市部でも深刻化する水害 法改正でリスク説明も、変わらない不動産価格
水害ハザードマップの提示義務化へ
近年、夏から秋にかけて線状降水帯や台風が頻発し、洪水や土砂崩れなどの甚大な水害が各地で起きている。2019年の台風19号では、安全とされていた神奈川や東京の都市部でも、道路の冠水や住宅の浸水といった被害が発生した。この年の全国の水害被害額は、統計開始(1961年)以来最大となる約2兆1800億円にのぼった。
こうした気候変動による自然災害の頻発を受けて、国土交通省は宅地建物取引業法の施行規則を改正した。2020年8月から不動産取引時において重要事項説明に「水害のハザードマップの提示」を義務づけたのだ。 ハザードマップは洪水や土砂災害、津波、高潮などのリスクを地図上に記したもので、おもに国交省や地元自治体が作成している。東日本大震災後、「津波」「土砂災害」のリスクは重要事項説明に入るようになったが、そこに「洪水」などの水害も加わることになった。
国交省の推計によると、河川氾濫のおそれがある「洪水浸水想定区域」に居住する人は、日本の総人口の28.7%、3651万人だという。被害は河川の堤防を越えた水が氾濫する「外水氾濫」もあれば、下水道を通る雨水が川にたどり着く前にマンホールなどからあふれてしまう「内水氾濫」もある。前者は2015年の鬼怒川、2019年の千曲川、後者は2019年の武蔵小杉一帯が代表例だ。 一度水害に遭うと、そこからの再建は容易ではない。 冒頭の高津区の男性(71)は泥などをかきだしたあと、1階のリフォームに取りかかった。壁はすべて張り替え、水に浸かったことで堅牢性が弱まった構造の強化もした。半年ほどの工期がかかり、費用は1千数百万円もしたという。 「ただし、全壊ではなかったので、保険がおりたのは費用の3分の1ほど。1千万円近くは自己負担でした。突然こんな出費になるとは思ってもいませんでした」 それでも、同じ場所での再建を選択したところに男性の地域への愛着がある。 では、こうした地域の不動産にはどんな変化があるのか。取材をしてみると、売買ではあまり変動はないという話が聞かれた。