都市部でも深刻化する水害 法改正でリスク説明も、変わらない不動産価格
「不動産価格は落ちていません」
「今ものすごく不動産の価格が落ちているかというと、実はそれほど落ちていません。もっと言えば、川の付近でもびっくりする値段で買われている状況です。(台風被害の実情を)知らない人たち、特に都内の不動産業者が建売住宅の用地として買ったりしているからです」 高津区にある不動産業、ライジングサンの担当者はそう語る。実際、久地1丁目の公示地価は2018年には1平方メートルあたり34万2千円だったが、翌年の水害後も上昇し、今年は1平方メートルあたり36万7千円にまで上がっている。戸建ての価格も、水害前と比較してほとんど変わっていない。 むしろ変化があるのは、賃貸の物件だと同担当者は指摘する。水害で浸水した地域のマンションやアパートの賃貸は敬遠され、現在もあまり埋まっていないようだ。 「高津区の一部エリアは完全に水没するほどの被害でした。物件を探す人には、紹介時にそうしたことを重要事項説明として言わなくてはいけない。すると、最初は『いいですねぇ』と言っていた人が、現地を訪問し、やめていってしまう。とくに昨年からは新型コロナの影響で、(通常だと貸し借りの動きが多い)単身者の動きが乏しいのですから、わざわざリスクがあるところを選ばないのでしょう」 高津区から多摩川を渡ると東京・世田谷区の二子玉川に近い地域になる。創業60年という二子玉川不動産に話を聞くと、こちらでも「災害リスクが不動産価格に影響を与えているとは思えない」と語る。
「2年前の多摩川の氾濫は印象が強いので、みんな知ってはいます。しかし、それでも需要は減っていません。なんせ災害の1週間後には、あの一帯も含めた地域で部屋を借りたいというお客さんが来ていましたからね。世田谷区はハザードマップで浸水域に入っている範囲が広い。災害リスクを気にする人は、そもそも二子玉川に物件を探しには来ないのではないでしょうか」 都内全域を対象に、おもにネットでの不動産売買を事業とする不動産流通システム(REDS)の担当者も、同じような回答だ。 「たしかに災害後、一時的に需要が減ることはあります。でも、しばらくすれば元に戻る。台風19号のときの(タワーマンションの林立する)武蔵小杉でも、値崩れを期待したお客さまから『安く買えないか』と問い合わせを受けました。でも、結局、価格は据え置きで売れました。二子玉川でも同様で、1階が浸水したマンションでも上の階は後日売れました。不動産価格は需要と供給のバランスで決まりますが、それだけの需要があるということなんです」 その言葉を裏づけるように、水害が起きた現場を歩くと、新しい建築工事が一帯で進んでいた。高津区では、今年完成したばかりというきれいな集合住宅があり、戸建て住宅も複数建築が進んでいた。目を引いたのは、周辺の住宅よりさらに地面を低く掘り下げた形で、ある集合住宅が建てられていたことだ。被害の大きかった場所だが、2年前の水害はまるで忘れられたかのように造られていた。