【文蹴両道】慶應志木高校 川原行人部長「うちの選手は理解力が高い。あまり言い過ぎないよう心掛けている」
慶應志木高校は国内に4校ある慶應大学の一貫教育校のひとつで、埼玉の私学では早大本庄と並ぶ最難関校として知られる。 【フォトギャラリー】慶應志木 慶應義塾の『独立自尊』という根本精神に基づき、慶應志木では独自の教育目標の下、生徒は勉強と部活動、学校行事に全力を注ぐ日々だ。少数精鋭の1学年250人の在校生の多くが慶應大に進学するが、毎年約65パーセントが経済学部と法学部に入学する。医学部へは例年7人か8人となっている。 サッカー部の川原行人部長は、部に携わって10年目の53歳で現在はトップチームの指導に当たる。静かに練習を見守る川原部長にサッカー部について伺った。 ――指導陣は山中智之監督との2人体制ですが、一番のご苦労はどんなことでしょうか? 絶対的に人手が足りませんので、生徒たちが自らよく考えて成長してもらえるよう促すことに注力を傾けています。複数のコーチがいて、選手を手厚く指導できるに越したことはありませんが、今はそれができない状態です。ただ、うちの生徒は頭がいいので自分たちできちんと考えながら行動していますね。こういう課題を持って練習に励むんだ、といった取り組むべきことを常に意識させながら選手と向き合っています。自分たちで解決策を見いだし、工夫を施すことがとても重要だと認識しています。 ――監督、コーチから言われたことだけをやっていたのでは成長は見込めませんね。 その通りです。指示待ちではいけません。じっくり考えながらやっている選手というのは、やっぱり3年間でものすごく伸びるものです。 ――自分で考え、自らの責任で物事を判断し行動する。『独立自尊』という慶應義塾の根本精神ですね。 そうですね。プレーヤーとして自分で考えて日々成長していかないといけません。うちに入部してくる選手というのは、中学生の時に高いレベルのチームでやっていた生徒は極めて少ない。それだけに入学してから目いっぱい頑張り、いかにして上手な選手に追い付き、追い越すかということをいつも考えながら練習してほしいものです。 ――先生が部長になられてからのこの10年で、生徒の気質はどんなところに変化が見られますか? 以前はどの選手もレギュラーになって活躍することを目指していました。そんな熱い生徒が多かったと感じます。「なぜ自分はポジションをつかめないのか」って本気で悔しがり、「これだけ頑張っているのにどうして」という思いから、ふてくされる生徒もいましたね。だから当時の選手たちには『もっとこうした方がいいんじゃないかな』とか『こんなふうにできればレギュラーを取れるかもしれないね』といったアドバイスをよくしたものです。今の子どもは、自分たちからあまり発言してきません。言われるのを待っているんです。指示されるのを待っている割合は、10年前に比べると高いですね。昔はチームを強くしようと仲間同士でやり合うこともありましたが、今はそういう競争意欲が希薄になったように感じます。当時は部員数が今より多かったことも、要因のひとつかもしれませんが。 ――選手同士で集まって話し合う機会は多いのでしょうか? やっています。公式戦後、特に負けた時は必ずやりますね。合宿中も選手だけでミーティングの席を設けています。もっとも自主的に行う代もあれば、言われないとやらない代もありますね(笑) ――慶應志木には大学に進むための受験勉強がないので、いわゆるガリ勉はあまりいませんか? 生徒によってはよく勉強している子もいます。サッカー部や他の運動部から慶應大学医学部に進んだ生徒も何人かいますね。 ――サッカー部員には勉強についての助言などもするのですか? いいえ、基本的に自分たちで考えて自分たちでやるように教えています。年に3回ある定期試験などで点数が悪かった時にはアドバイスもします。うちには進級基準があり、そこで引っ掛かりますと留年の危機が出てきますから、そういう折には適宜アドバイスします。それほど多いわけではありませんが、医学部を目指している部員もいますね。大学のどの学部に入れるかは定期試験次第なので、このテストはみんな頑張ってやっています。 ――サッカー部員は勉強熱心な生徒も多いのですか? 以前、サッカーをやりたいけど成績が伸び悩み、このままでは大好きなサッカーを断念せざるを得ないからと、夏休みに一心不乱に勉強して2学期で巻き返した生徒もいました。サッカーを続けたいから勉強をおろそかにしない、という生徒はよく見かけます。毎年ひとりくらいはいるでしょうか。