休日の寝だめは逆効果!「社会的時差ボケ」が不調を招く 今日から睡眠の質を上げるためにできること
従業員の睡眠の質を上げることが、健康経営に大きな影響を及ぼす
――最近は昼寝制度を設けるなど、勤務時間中のパワーナップを導入する企業が見られますが、どのような効果があるのでしょうか。また、その効果をより高めるにはどうすればいいのでしょうか。 昼食後の眠くなる時間帯にパワーナップを行うと、午後の眠気を抑えてくれる効果があります。 より効果を高めるためのポイントがいくつかあります。まず、15分ほどの短い仮眠にとどめること。40分以上の長い昼寝をすると、寝ぼけが出たり、睡眠が深くなりすぎたり、睡眠のリズムが乱れたりします。また、眠気が強くなりやすく、ヒューマン・エラーを起こしやすいと言われる14時前に実施するといいでしょう。実践的にはお昼休みの仮眠が良いでしょう。 以前行った実験結果によると、月曜にパワーナップを行うよりも、平日の疲れが蓄積してくる水曜や木曜に実施した方が午後の眠気を抑える効果が見られました。 従業員が業務中に眠気を感じたときのために、パワーナップが気軽にできるような環境を作るといいでしょう。仮眠スペースには衝立をおくなど、寝ているときに周囲からの視線を感じずに安心できるスペースをつくります。仮眠の前にコーヒーを飲んでおくと、20分位でカフェインが効いてきてスムーズに目覚めることができます。 ――従業員のより良い睡眠を実現するため、企業、人事部門はどのようにサポートしていけばいいのでしょうか。 まず、睡眠がメンタルヘルスへの影響が大きいことを、人事部門の方に知ってほしいですね。睡眠にまで踏み込まないと、メンタルヘルスに関する課題は解決しないとも言えます。 私は企業からの依頼で、従業員へ睡眠に関して講演をすることがありますが、そのときに話を聞くと、多くの方が睡眠に関する問題を抱えています。しかし、どこに相談すればいいかわからないという人や、病院にまで行く必要はないと考えている人が多い。放置しておくと睡眠負債や社会的時差ぼけにとどまらず、不眠症や睡眠時無呼吸などの問題に発展してしまうこともあるので、人事部門がサポートすることが求められます。 例えば睡眠に関するイベントやセミナーを開催したり、睡眠の状態がわかるデバイスを支給したりするといいでしょう。イベントに参加した従業員にはインセンティブを支給するという施策などもいいかもしれません。 相関関係は明確ではないのですが、よく笑っている人は起床困難やいびき、寝不足感や疾病休業などの影響が少なく、総じて睡眠の質がいいと言われています。職場でみんなが笑うことができるリラックスできるような環境をつくることも大事ですね。 睡眠を軸にして生活を考えていかなければ、いい仕事を実現できません。ワークエンゲージメントを考えるように「スリープエンゲージメント」の向上も大切です。人事の皆さんには、従業員が質の良い睡眠を取り、前向きに仕事へ向き合えるようにサポートしてほしいですね。
プロフィール
中田 光紀さん(国際医療福祉大学 赤坂心理・医療福祉マネジメント学部長/心理学科 教授 国際医療福祉大学大学院 医学研究科 公衆衛生学専攻 教授) なかた・あきのり/東京大学大学院医学系研究科満了。博士(医学)。独立行政法人労働安全衛生総合研究所研究員、CDC:米国疾病予防管理センター・国立労働安全衛生研究所チーム・リーダー、産業医大教授などを歴任。日本心理学会国際賞奨励賞、CDC:米国疾病予防管理センター・国立労働安全衛生研究所アリス・ハミルトン賞、ブラード・シャーウッド賞などを受賞。