ネタツイートから生まれた小説が書籍化 『横浜駅SF』著者・柞刈湯葉さん
天変地異を予感させる富士山の「増減」
――横浜駅に縁があるわけではなく、横浜駅がずっと工事をしているということについてはネットで見たとか。 もともと色々な地域の「地元ネタ」が好きで、そういうのにアンテナを張ってるんです。各地域の観光案内所が押し出してるようなものはあまり興味がなくて、地元民の生活に密着しているネタが好きなんです。北海道に行ってもクラーク像とかは見ずにセイコーマートで買い物をするとか、東京から大阪に行く過程で「どこで8枚切りパンが無くなるのか」を観察するとか。 ――『横浜駅SF』はたくさんの作品の影響を受けているそうですね。 これを書き始める数カ月前に研究室の後輩から弐瓶勉の『BLAME!』(講談社)を借りて読んでいたので、その真似がいちばん大きいですね。あと椎名誠の『アド・バード』(集英社)です。この2つは全体的に強く影響しています。 細かい点を挙げていくと、芦奈野ひとしの『ヨコハマ買い出し紀行』(講談社)という漫画で、三浦半島に住んでいる主人公が富士山を眺めるシーンがあるのですが、なぜかその富士山が減っているんです。なんだか分からないけどすごい天変地異が起きていることを予感させるわけです。 で、「これはいいな」と思って、横浜駅SFの冒頭シーンを「富士山が増えている」というところから始めました。エスカレータで覆われて富士山が標高4,000メートルに達しちゃってるんです。シーン単位でいうとそういうのが一杯あるんですが、もう元ネタを自分でも覚えてないのが多いです。
結局は好き勝手に書くしかない
――これまで一番嬉しかったコメントや意外だった反応はありますか。 コメントをもらって「嬉しい」と思うことはあまり無いですね。 小説というのはレシピ本と一緒で、書かれてる料理がうまいかどうかは読者次第なところが大きいと思っています。僕が「砂糖適量」「重曹少々」「バニラエッセンスおこのみで」とか書いて読者が美味しいお菓子を作れるかどうかは「適量」に対する読者のセンスによるところが大きいです。なので「とても美味しかった!」と言われても「このひとの適量が適切だったんだな」と思うくらいです。 意外だった事というと、特定のコメントよりも、反応がこんなにも多様であることに驚きました。同じ文章を読んでるはずなのに「登場人物が活き活きとして素晴らしい」という人もいれば「キャラクターが紋切り型でつまらない」という人もいて、「文章がよく練られていて読みやすい」という人もいれば「文章が平坦すぎて退屈」という人もいます。 こういうのを見てると「これだけ色々な意見があるなら、結局は好き勝手に書くしかないな」と思いますね。他にネットで作品を発表してる人を見てると、たまたま最初に来た少数意見を「正解」だと思って振り回されちゃう人が多いようですが。 ――書籍化にあたっての作業で苦労していることやこだわっていることはありますか。 これはまさに今進めているところなのでお答えできません。とても面白い体験が多いので全部終わったら語りたいですね。