熊本地震、北海道地震、能登半島地震…なぜ発生確率の低い地域ばかりで大地震が起こるのか?【科学ジャーナリスト賞・菊池寛賞・新潮ドキュメント賞 トリプル受賞で注目の新聞記者が語る】
大規模災害に対応するには
――地震発生確率を公表することの問題点については『南海トラフ地震の真実』によって広まりつつあると思いますが、今後取り組みたいテーマはありますか? 今後は防災の観点からの取材も強化したいと考えています。海外では、アメリカの連邦緊急事態管理局(FEMA)、イタリアの市民保護局など、防災を専門とした省庁があります。 日本には、各省庁に防災を担う部署がありますが、縦割り行政の弊害があり連携が不十分です。国土交通省が担っている部分が大きいですが、取りまとめているのは内閣府です。 しかし内閣府は南海トラフ地震関連の予算が国全体でどれだけあるのか、きちんと把握できていません。部署が細かく分かれているために、政策としても筋が通っていません。 果たして、これで南海トラフ地震や首都直下地震に対応できるのか疑問です。防災担当を一元化した「防災省」の必要性を長年訴えている関西大学の河田恵昭特任教授(防災・減災学)も、「今のままでは大規模災害には絶対対応できない」と言っています。 9月の自民党総裁選で石破茂氏が選ばれましたが、9人も立候補した中で、唯一、「防災省」の創設を掲げていたのが石破さんでした。 各省庁にまたがる防災関連の部署を一つに束ねるには強力なリーダーシップが必要です。静岡県で40年近く防災担当を務めた静岡大学の岩田孝仁特任教授は「総理クラスのパワーを持った人がトップダウンで改革しないと(防災省の)実現は難しい」と言います。 防災は「命を守るため」という大義名分があるため、政策を批判しにくい側面があります。 しかし、国民の命や生活に影響するからこそ、防災行政が一人歩きしないよう、メディアとしてしっかり監視していく必要があると思います。 一筋縄ではいかないでしょうが、これからもこの動きを注視しつつ、私たちが知るべき情報を発信していきたいと思います。 撮影/早川歩夢 ※「よみタイ」2024年10月12日配信記事
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