熊本地震、北海道地震、能登半島地震…なぜ発生確率の低い地域ばかりで大地震が起こるのか?【科学ジャーナリスト賞・菊池寛賞・新潮ドキュメント賞 トリプル受賞で注目の新聞記者が語る】
科学と防災を混同してはいけない
なぜ科学と防災を切り分けて考えることが大事なのか。それは低い確率だったとしても、一たび巨大地震が起きれば、命に関わるからです。 科学的にはあまり起こらないだろうと言われていても、防災の観点からは対策が必須です。低確率地域のほうが、高確率地域よりも先に地震が起きるかもしれない。 野球で言えば、選手の打率だけ見ても、高打率のバッターと低打率のバッターで、ある試合でどちらが先にヒットを打つかわからないのと同じです。事実、能登半島地震の震源地となった石川県は大部分が地震発生確率0.1~3%でした。 他にも問題はあります。 臨時情報で「空振り」が続けば、次第に信用されなくなるでしょう。あるいは、大きな地震が起きるときには、臨時情報のように何らかの事前情報が出されるはず、という誤解が生まれる可能性がある。逆に言えば、警戒する情報がなければ、準備しないという行動につながってしまう。 こうした情報が出されれば、その時は一時的に防災意識が高まるかもしれませんが、大地震の前に予兆となる地震が起きないことのほうが圧倒的に多いのです。 つまりほとんどの地震は突然起こる。臨時情報がなくても、いつ地震が起きてもいいように備えておくことが必要なのです。 これと似たような状況として、地震発生確率が高い地域では、普段から警戒していることもあり、防災意識が高くなりやすいかもしれませんが、低確率地域では油断が生まれやすいということがあります。 図1は政府の特別機関である地震調査研究推進本部が出した「全国地震動予測地図」の上に、1979年以降10人以上の死者を出した地震の震源地を落とし込んだものですが、熊本地震、北海道地震、能登半島地震など、確率が低い地域ばかりで大地震が起きていることがわかります。 地震保険の加入率を調べると、愛知県、徳島県、高知県など南海トラフ地域で高い加入率となっていますが、能登半島地震の震源地となった石川県の加入率は全国平均以下でした。 また、低確率地域の自治体は、そのことを理由に安全性をアピールし、企業誘致活動を行っていました。発生確率を公表することで、低確率地域にとっては、それが「安心情報」になっているのです。