現役生と浪人生、ワクチン投与の優先順位は? 実際に行われた「役所による選別」という大問題
現役生か、浪人生か?
2009年の日本の受験期に、新型インフルエンザが流行った。当然ワクチンには限りがあった。もちろん、日本中の受験生が我先にと殺到するおそれがあった。そこで厚生労働省は、ワクチン投与の優先順位を決めた。現役高校3年生を優先し、浪人生を後回しにする、という順序であった。 厚労省の考えは次のようなものであった。高校3年生は原則的に毎日登校しなければならないから、インフルエンザ罹患者が1人でもいると全校に蔓延するおそれがある。そうなれば彼・彼女らの多くが入試において不利になってしまう。 それに比べて浪人生は現役生ほど差し迫っておらず、基本的に家で勉強するし、人混みに出ることはあまりないだろうから、必ずしも急いでワクチンを投与しなくてもいいだろう、と。 しかし、この選別理由は誤解に満ちている。浪人生だって現役高校生と同じく(むしろもう失敗はしたくないからより強く)受験に対しては必死であり、したがって多少の無理をしても予備校に通う。リスクはいずれも同じである。 しかも、この選別の背景には、現役合格の方が価値が高い(から守られねばならない)という日本特有の大学受験観がある。現役生に比べて浪人生は失敗し慣れているから後回しでもいいだろうという偏見も見え隠れする。 当初、人々を平等にみてできるだけ多くの人々を幸福にしようという思いから生じた功利主義が、「社会全体の不利益を最小限にしよう」という発想に切り替わった途端、不利益を負わせるべき人々を探し出す選別思想に転じてしまう。 そして、そういう選別の際には、今の実例のように偏見や蔑視が働いてしまったり、最終的には不利になる者の数の大小で決められたりすることになる。だが、そういう選別は、もちろん選別の責任を負う立場によっても異なるが、そう安易にできるものではない。 さらに連載記事<女性の悲鳴が聞こえても全員無視…「事なかれ主義」が招いた「実際に起きた悲劇」>では、私たちの常識を根本から疑う方法を解説しています。ぜひご覧ください。
住吉 雅美