ライトウェイトからプレミアム・プラスへ。新生ロータスの野心的戦略
ロータスは2018年に中期経営計画「ビジョン80」を発表した。これは創業者であるコーリン・チャップマンが後のチャップマン夫人の実家ガレージにてロータス・マークIを完成させてから80年を迎える2028年までに同社が目指す姿だ。驚かされたのは同社が伝統的な自動車会社から、オール電動のインテリジェントでラグジュアリーなモビリティ・プロバイダーへと変革すると宣言したことだった。しかもエミーラ投入前までは年産1500台に過ぎなかったロータスが、2028年までには年産15万台まで拡大させることを目指すという。 【画像】ロータス・テクノロジー・イノベーティブ・リミテッドのプレジデント&CEO アジアパシフィック、ミドルイースト&アフリカ、ダン・バルマー氏にインタビュー(写真7点) 「昔ながらのお客様にとってはロータスの変容ぶりに躊躇される方がいらっしゃることは認識しています」と語ったのはロータス・テクノロジー・イノベーティブ・リミテッドのプレジデント&CEO アジアパシフィック、ミドルイースト&アフリカ、ダン・バルマー氏。ジーリー(吉利汽車控股有限公司)傘下に収まったロータスの法人格は複雑化しており、「ロータス・テクノロジー・イノベーティブ・リミテッド」を頂点に複数の子会社がぶら下がっている。なかなか興味深いのだが長くなりそうなので別に機会があれば、じっくり紐解いてみたいと思う。 「ミニ、ベントレー、ロールス・ロイスなどが大きく変貌を遂げたように、ロータスでも着実に変貌を遂げることができると思っています。社内に残っている資料を読んでみるとコーリン・チャップマンは、常にライトウェイト・スポーツカー以外の分野への進出を目論んでいたことが分かっています。そして、稀にカタチとなったのがコルティナやカールトンなどです。ジーリー傘下に入ったことでようやく、ライトウェイト・スポーツカー以外への展開を試みる体制や財源が確保された、ということです」 最近、自動車業界に限らず、あらゆる分野における技術革新/サービス革新の類で「Disruptive(破壊的)」という言葉が用いられるが、ロータスも自らの殻を“破壊的”に打ち破ろうとしてきたのだ。そして、新生ロータスが狙うのは「プレミアム・プラス」と呼ばれる顧客層である。 「世界各地でディーラーネットワークの拡充や、顧客にリーチしやすいロケーションに新しいショールームをオープンさせています。中国やイギリスではディーラーに足を運ぶことなくオンラインで注文できる体制も整えられていますが、個人的にはエレトレやエメヤを実際にご試乗頂きたく願っています」 というのも、BEVのSUVであるエレトレもセダンのエメヤもロータスのDNAであるドライビング・ダイナミクスが受け継がれているからだという。そう、全長5mオーバーの電気自動車であっても、だ。 「私は普段、エレトレに乗っているのですが、ボディサイズをまったく感じさせない走りに大満足しています。車とドライバーに一体感があるので、実際のボディサイズよりも小さく感じるんです。こればかりは体験なさって頂かないとなかなか言葉では伝わりません」 バルマー氏は今でこそプレジデント&CEO職についているが、かつてはボディ・ストラクチャー・エンジニアであった。そんなバルマー氏ならではの新生ロータス車両への期待を聞いてみた。 「BEVはバッテリーをプラットホームの構造体として活用できる、という点は自動車において革新的です。重心を低められますから、ハンドリング性能の向上を期待できますし、車内の空間デザインに自由度がもたらされます。今の時代にボディ・ストラクチャー・エンジニアだったら、相当面白かっただろうなと思っています」 なお、ロータス車のプラットホームやシャシーはロータス独自開発なのだという。また、各国の法規制を満たすためにはソフトウェアのファインチューンが必要だが、エレトレとエメヤはレベル4の自動運転ができるハードウェアを既に搭載しているとも。 最後にアメリカが中国製BEVに課すことになった関税について質問してみた。 「現在のラインナップに加えて小型SUVを2年以内に、スポーツカーの投入も予定されているので年産15万台は決して非現実的ではありません。ただ、各国のEV政策や顧客の需要に応じて、生産ラインはフレキブルに増減させるつもりです。BEVに関しては実に95%が自動化されていますので、素早く対応することができます。現在、中国生産されているBEVのアメリカでの関税は100%、ヨーロッパが38%となっていますので商品展開の変更を現在、議論しているところです」 ロータスの伝統的なスポーツカーメーカーから、最先端のEVテクノロジーを駆使したプレミアム・プラス・ブランドへと変貌を遂げようとしている。バルマー氏が語るように、この変革はロータスのDNAを失うことなく、むしろその本質を新時代に適応させる挑戦と呼べる。 文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ロータスカーズ Words: Takashi KOGA (carkingdom) Photography: Lotus Cars
古賀貴司 (自動車王国)