高齢の飼い主がペットの世話をできなくなったら――人と動物が最後まで幸せに暮らすために準備すべきこと
久しぶりに帰省したら、老親の愛犬が世話をされていない状態で――。認知症や体力の衰え、入院などで、高齢の飼い主がペットを飼育できなくなったらどうするか。一人暮らしの高齢者が増えるなか、介護の現場にも影響が出ている。ペットの世話は介護保険の対象外なので、排泄物が始末されていない様子を目にしても、ヘルパーは手を出せない。当事者や介護従事者、解決に向けて取り組む人たちを取材した。(取材・文:篠藤ゆり/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
遠方で暮らす認知症の母と8頭の犬
東京在住の佐々木薫さんは、6年前の「あの日」の光景が今も忘れられない。九州で暮らす母親(当時85歳)に認知症の症状が出て、施設に入居することが決まったため、久しぶりに帰省。リビングに足を踏み入れると、8つのケージが置かれ、中に1頭ずつ犬がいた。 以前から母親がボルゾイとイタリアングレーハウンド2頭、チワワ3頭を飼っていたのは知っていたが、いつの間にか2頭増えている。しかもケージに閉じ込められた犬たちは、きちんと世話をされておらず、毛はボサボサ。排泄物の始末もいい加減で、においもひどい。 薫さんは当時をこう振り返る。 「母は本当に動物が好きで、ずっと犬を大事にしていたのでショックでした。このままにしておいたら、犬たちは保健所に送られかねない。そうなったらかわいそうだけど、どうしていいか分からなくて……。部屋の様子を動画と写真に撮り、いったん東京に戻りました」
友人、知人に実情を打ち明け、写真や動画を見せると、知人たちが「車で九州まで行くから、まずは助け出そう」と申し出てくれた。 準備をして実家に戻るとボルゾイは死亡していた。7頭の犬を獣医師のもとに連れていくと、柴犬が重度のフィラリアにかかっていることが判明。リードにつないで屋外に連れ出したら、戸惑って固まってしまう若い犬もいた。生まれてから一度も散歩に連れていってもらっていないようだった。 九州で良心的な動物保護団体を探し、3頭を引き取ってもらった。4頭の犬は東京に連れていき、東京の動物保護団体や知人のつてで譲渡成立。それぞれ新しい飼い主のもとに引き取られた。 「母は70代の頃、寂しいから新たにチワワを飼いたいと言い出しました。当時は母とちょっと疎遠だったこともあり、本人に任せておいたんです。今思えば、母は孤独から動物に救いを求めたのかも。あの時、もっと母の気持ちを理解できていたら――。その年齢から犬を迎えても、最後まで面倒を見るのは無理だと説得するべきでした」