〈エアコン設置から自衛隊配備、大阪都構想まで〉住民投票は直接民主主義なのか? 大阪大学・砂原庸介
具体的な政策について住民投票が行われることが増えてきている。埼玉県では、小中学校の校舎にエアコンを設置するかどうかが問われ、沖縄県では自衛隊配備の是非を問う住民投票が行われた。住民投票は、機能不全に陥った地方議会を「直接民主主義」的に補完するものなのか。それとも、「代議制民主主義の否定」であり、混乱を招くものなのか。政治学者の砂原庸介・大阪大学法学研究科准教授に寄稿してもらった。
住民投票への注目
2015年、日本の地方政治における大きなイベントは「統一地方選挙」だが、2015年に入って繰り返されているイベントとして「住民投票」がある。住民投票といえば、市町村合併の際に行われることが少なくなかったが、最近ではより具体的な政策について住民投票が行われることが増えている。度重なる不祥事のために地方議会が機能不全に陥っているという感覚が広がり、直接民主主義的な住民投票によって意思決定をすることを主張する人々が増えていることもその背景にあるだろう。 2015年2月15日には、埼玉県所沢市で、航空自衛隊入間基地に近い小中学校の「防音校舎」にエアコンを設置するかどうかを問う住民投票が行われ、賛成56921票、反対30047票で、賛成が上回った(投票率31.54%)。9年前にエアコンの設置が決まっていたものの、その後当選した現市長がエアコンの設置に反対して計画を中止し、それに反発する住民からの直接請求をきっかけに住民投票が行われることになったのである。市長は、賛否いずれかが有権者の3分の1以上(約82750票)に達した場合は結果に従うと表明していたが、結果は賛否いずれもその水準には満たないものであった。 その翌週の22日、沖縄県与那国町では自衛隊配備の是非を問う住民投票が行われた。1276人の有権者のうち632人が賛成に回り、誘致賛成の町長の方針が支持されることになった(反対445票、投票率85.74%)。2008年に町議会が誘致の議決をしてから町長選・町議選で賛否が拮抗し、激しく対立してきたが、有権者の出した回答は賛成ということで、一応の決着を見たことになったと考えられる。 そして5月17日には、大阪市で「大都市地域特別区設置法」に基づく特別区設定のための協定書の賛否をめぐる住民投票が実施されることになった。2010年に橋下徹府知事(当時)が提起した、いわゆる「大阪都構想」は、大阪府議会・大阪市議会で激しい論争が続けられ、2011年の府知事・市長ダブル選挙とその後の法定協議会での議論を経て、一時は住民投票まで辿り着くことが難しいように見えたが、2014年末の公明党の突然の賛成で、協定書が法定協議会・大阪府市両議会で可決され、住民の審判を受けることになったのである。