〈エアコン設置から自衛隊配備、大阪都構想まで〉住民投票は直接民主主義なのか? 大阪大学・砂原庸介
住民投票の類型
日本で政策的な判断のために住民の意思を問うような住民投票は、大きく3つのパターンに分類できる(※1)。ひとつは、憲法95条(※2)の規定に基づく住民投票である。憲法は、特定の地方自治体のみが影響を受ける法律であれば、当該自治体の住民の過半数が賛成しないと法律として認められないとしており、それを確認するために住民投票が行われる。このような住民投票はこれまでに19例存在するが、いずれも「都市建設」のため特定の自治体に対して財政措置を行うものであり、全て賛成多数で可決されている。しかし、このような住民投票が最後に行われたのは1952年であり、もう60年以上この形式の住民投票は行われていない。 次に挙げられるのが、市町村合併について住民の意思を問う住民投票である。いわゆる平成の大合併において、合併の賛否を問う住民投票は319件行われ、そのうち賛成多数となったのは171件である。また、どの自治体と合併するかという「枠組み」を問う住民投票も73件行われた(※3) 。しかし、これらの住民投票は、必ずしも「○○町と合併するかどうか」を直接問うものではなく、住民投票の結果が「無視」されることもあった。最終的には長や議会の判断ということで、合併を主な争点とした長の選挙などの結果を踏まえて合併の決定が行われることも少なくなかった。 もうひとつの類型は、NIMBY(Not in my backyard)問題に端を発した住民投票である。いわば自治体の「政策」について住民の意思を問うものであり、冒頭の三つの事例もこの類型に含まれると考えられる。このような住民投票は、1990年代後半以降、原子力発電所や米軍基地、産業廃棄物処理施設のようないわゆる迷惑施設の建設などをめぐって行われてきたが、2000年代後半からハコモノ建設や道路建設などの賛否も対象とされるようになっている。2012年の鳥取市庁舎移転をめぐる住民投票や、2013年の小平市における都道建設をめぐる住民投票も新しいタイプの住民投票といえるだろう。 このタイプの住民投票は、個別の条例を根拠として行われ、結果については法的な拘束力があるわけではない。そのため、結果が政策に反映されるとは限らない。たとえば、1997年に行われた宮崎県小林市での産業廃棄物処理施設の設置にかかる住民投票では、建設反対が全体の60%弱であったものの、その結果を無視するかたちで建設が行われ、現在も稼働が続いている。また、沖縄県名護市では米軍のヘリポート基地建設をめぐる住民投票が行われ、反対が少し上回ったにも関わらず、市長の辞職と引き換えに建設が進められている。ただし、5月に予定されている大阪市の住民投票は例外的である。これは大都市地域特別区設置法に基づくもので法的な拘束力が認められることになっている。