豪雪地帯・十日町の古民家に魅せられたドイツ人建築家の10年。カール・ベンクスさんが移住して10年、古民家再生を続けて今起きている変化 新潟
冬になれば一面を白い雪が覆う竹所は、これまで「銀世界」や「モノトーン」という言葉がぴったりでしたが、今は冬でもカラフルです。 むしろ、真っ白なキャンバスに色とりどりの古民家が並ぶ景色は、とても日本とは思えない風景。まるでモノクロ映画しか上映されなかった映画館に、カールさんが初めてカラー映画を持ち込んだような、そんな竹所の冬の光景です。
カラフルな古民家。
カールさんのもとに、若い人たちが自然と集まってくる
平成22年(2010年)、カールさんは竹所から車で約20分の松代の商店街にあった老舗旅館を「まつだいカールベンクスハウス」として改修。古民家の良さをたくさんの人に知ってもらおうと、1階にカフェ「澁い-SHIBUI-」をオープンし、2階に自身の事務所を開設しました。
ほどなく日本各地から古民家再生の依頼が来るようになり、やがて総務省の平成28年(2016年)度「ふるさとづくり大賞」では、夫妻で内閣総理大臣賞を受賞。受賞理由は「普通なら古民家を昔通りに戻すが、カールさんは色も形も変える。それが地域にインパクトをもたらし、移住してきた人もいる。なるほどこういう使い方もあるのか、という外国人ならではの視点」が評価されたようです。 このように建築デザイナーとして日本で活躍する上で、カールさんに欠かせないのが、腕のいい地元の工務店です。 とはいえ、昔から見れば腕のいい大工さんは年々減っているそうです。一方で「最近は若い人でも、こういう仕事をしたいと思う人が増えてきました」(カールさん)とうれしそう。
例えば竹所では、双鶴庵を手がけた地元の工務店には、親方と棟梁とともに、一緒に働いている親方の息子さんがいるそう。また、埼玉県で1棟手がけた際、周辺で手伝ってくれる工務店を探していたところ、日本家屋を積極的に手がける若い人ばかりの地元の工務店を見つけたそうです。「日本の技術を学びたいという若い人は、結構いるのだと思います」(カールさん) 現在、一級建築士の小野塚良康(おのづか・よしやす)さんに設計を外注し、二級建築士の彼の妻が夫の仕事を手伝っています。もともと東京で働いていた小野塚さんですが、子育てにぴったりな環境で暮らしたいと良い場所を探していたそうです。そんな中で見つけたのが、カールさんが再生した古民家「梨の木ハウス」。移住を決めただけでなく、ちょうどカールさんも設計ができる人を探していたこともあり、小野塚夫妻は古民家再生に携わることになったそうです。 「日本の古民家は芸術品」と言うカールさん。彼と同じように、古くても良いものを大切にしていこうと思う若い人たちが、この先も古民家再生を推し進めていきそうです。 ●取材協力 カール・ベンクスさん 建築デザイナー カールベンクスアンドアソシエイト有限会社 取締役。 1942年、ドイツ・ベルリン生まれ。絵画修復師の父の影響を受け、日本文化に関心を持つ。 ベルリン・パリで建築デザインオフィスに勤務。1966年、空手を学ぶために日本大学に留学。以降建築デザイナーとしてヨーロッパや日本で活動。特に日本の民家に強く惹かれ、ドイツに移築する仕事に携わる。1993年、新潟県十日町市竹所で現在の自宅(双鶴庵)となる古民家を購入、再生に着手する。1999年、カールベンクスアンドアソシエイト(有)を設立。 2010年、歴史ある旅館を買い取り再生。『まつだいカールベンクスハウス』と名付け、事務所を移す。2021年時点で、日本での古民家再生数60 軒に。 カールベンクスアンドアソシエイト有限会社
籠島 康弘
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