子どもたちの持つ令和の価値観に取り残されないために。今知っておきたい小学校教育の現在地
うちのクラスって、給食の残りが多いんじゃない?
実際に教育現場ではどのようにSDGsを扱っているのか、「にのみや学園 二宮町立山西小学校」の教員たちに聞いた。 教頭である山口さんは「SDGsに関連した授業となると、まず総合になるんです」と前置きをした上で、こう語る。 「最初に、『みんな、今年はどういうことをやっていきたい?』と聞いて、児童たちが興味のあるテーマを選びます。きっかけは、子どもたちの興味関心。私が担当したある学年は、生き物に関する環境問題にすごく興味のある子たちで。積極性が低めのクラスもときおりありますが、そういうときは『去年はこんなことをやったんだけど、どう思う?』と、興味関心を探っていきます」 鈴木さんが担当したクラスでは、環境や食べ物についての興味が強かった。 「5年生を担任したとき、最初は品種改良のことを知りたいという子がいたりする中で、クラスで話し合っていった結果、『給食の残りが気になるよね』という話になって、フードロスのことを学んだり。『なんかうちのクラスって、給食の残りが多いんじゃない?』という身近な違和感からテーマを見つけたような感じですね」 鶴見さんは、別の授業で学んだことが総合にも活かされることについて教えてくれた。 「社会科の中で貧困や難民、人種差別、テロ、といったことを学んだことがきっかけで、子どもたちから人権問題に関する興味が湧いてきたんです。その関心から発展して、ユニクロさんが取り組む『"届けよう服のチカラ"プロジェクト』に参加しました」 子どもたちとしても名前を聞いたことのある有名企業のプロジェクトに関わることで、積極性を持ちやすい。難民について学ぶだけではなく、実際にプロジェクトに参加する形で、児童の自発的なアクションにつなげていくと鶴見さんは言う。 「実際に着なくなった服を呼び掛けによって集めて、その集まった服を難民キャンプの子どもたちに届けるということで、服を集めるための情報活用だったり、広めるための活動だったりに取り組みました。子どもたちにとっては、アフリカの子どもたちは自分たちと同じ子どもなので、自分事にしやすいんじゃないかなと思います。子どもの権利条約について学ぶ子もいました」 ユニクロの店舗に行くと、リサイクルボックスがある。「大切なのは『箱に服を入れる』というだけじゃなくて、『箱に入れた服はどうなるんだろう?』『自分たちは箱に服を入れること以外に何ができるんだろう?』と考えてみること」と、鶴見さんは続ける。 「子どもたちにとっては『同じ子どもなのに、服がなくて困っている人がいるんだ!』というカルチャーショックがあります。そういう事実を知って、自分たちがすごく恵まれた環境にいるんだと気づいた子も多かったのかなと思いますね」 義務教育というと、教科書の内容を押し付けられるように教師から教わっていたという印象を持っている親世代も少なくないかもしれないが、総合があることで「これをやりなさい」ではなく、「どういうことをやってみたい?」と問いかけられ、自らで考える力が育まれる。 そんな中、もちろん課題もあると山口さんは言う。 「総合の授業は子どもたちの主体性が大切なことは大前提ですが、完全に子ども任せにしてしまうと『ただ表面的な情報を調べて発表して終わり』ということにもなりかねません。深い学びを得るためには、教員側にも経験値や知識の量が求められます。現状、すべてのクラスで総合の授業が充実しているかというと、そこは課題です。教師が選択肢をつくってあげられるように私たちも工夫していかなければならないと考えています」 藤間さんは小学校教育の変化として、IT化のメリットと弊害を挙げる。 「今の子どもたちは学校でもご自宅でもタブレットを文房具のように使いこなしています。調べ物をするのはもちろん、プレゼン資料をつくったり、動画をつくったり。もちろんそれ自体は素晴らしいことですが、あえて悪い面を言えば、それってなんでもひとりで完結してしまうということなんです。私たちも含めてですが、今の親御さんたちって、本当に忙しい。それでもやっぱり、一緒にご飯を食べるとかニュースを見るとか、親子で対話をする時間をとってもらえたらいいなって思っています」