子どもたちの持つ令和の価値観に取り残されないために。今知っておきたい小学校教育の現在地
これからは社会参画できる子どもが増えていく
日本では、平和で持続可能な社会をつくるための活動をするユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の理念を実現する学校を、ユネスコスクールと呼んでいる。神奈川県横浜市のみなとみらい本町小学校もそのひとつだ。 SDGsを積極的に扱うこの学校では、SDGsが子どもたちの将来にどのように影響すると考えられているのか。校長の小正和彦さんと6年生を担当する杢田陽花さんに聞いた。 小正さんから出てきたのは、「子どもたちにSDGs自体について教えているわけではない」という意外な言葉だった。 「開校6年目のみなとみらい本町小学校は、『持続可能な社会の担い手を育む』という開校宣言を掲げて創立しました。かといって、『今日は、SDGsの◯番について学びましょう』という授業をしているわけではないんです。子どもたち自身で、持続可能な社会を実現するための身の回りの課題を見つけることから、学びを深めていきます」
総合的な学習の時間では、民間企業や行政など外部の人たちとの連携に力を入れている。 杢田さんのクラスでは、児童がみなとみらいの企業やお店にインタビューをして、街のSDGsの取り組みを謎解きゲームで伝えようとしている最中だ。 「もともとは、『みなとみらいを楽しくしたい』という思いから、観光マップをつくろうとしていたんです。でも、みなとみらいには観光マップはすでにたくさんあることや、自分たちがそれをつくっても地域の課題を解決することにつながらないと子どもたちが気づいて、街を探検することに。そこから、街の中でSDGsの活動があまり見えてこないことに着目し、企業やお店の方々が取り組んでいるSDGsの活動を自分たちが発信していく方向に変わっていきました」 杢田さんは、「教師の立場から『こっちの方がいいんじゃない?』と言いたくなることもあるけれど、そこをグッと堪えることで児童自らの気づきにつながる」と主体的に考える力を育む教育方針を大切にしている。 2024年3月に卒業を控える6年生は、開校と共に入学した世代。 「自分のための活動から、誰が喜んでくれて地域にどう役立つのかという『誰かのために』の視点を取り入れて活動するようになった」と、小正さんは子どもたちの心の成長に目を細める。 2022年度に卒業した6年生は、海沿いに漂着するゴミを減らすためにガードをつくることを発案し、港湾局の担当者にプレゼンまでした。すると翌年度、港湾局ではその提案をもとに具体的なフェンスの設置を計画することになったという。 違うクラスでは、男女共同でジェンダーの課題を取り上げ、「性別を理由にしてイヤな思いをしたことはないか?」というアンケートを全校生徒に取った。集まった悩みに対して、性教育YouTuberとして活動する大貫詩織(シオリーヌ)さんからアドバイスをもらうと、それを横浜市と共同で冊子にまとめた。