疎んじていた母の歴史、沖縄/琉球の歴史について学び、考える―エリザベス・ミキ・ブリナ『語れ、内なる沖縄よ――わたしと家族の来た道』永江 朗による書評
1981年にシカゴで生まれた著者の自伝。母は沖縄の嘉手納に生まれ育ち、ベトナム帰還兵の父と結婚してアメリカに渡った。 母は何年暮らしてもアメリカの言葉や生活習慣になじめない。幼いころの著者はそれが不満で、母という存在を恥じてもいた。著者は外見がアジア人であるがゆえに差別やいじめにあったが、それも母を疎んじる理由だった。 しかし著者は34歳のとき(つまり、わりと最近になって)、母の歴史、沖縄/琉球の歴史について学び、考えるようになる。沖縄戦のこと、占領と日本への返還、駐留する米兵が起こした犯罪について。日本に組み入れられる前の歴史について。 そして気づく、母がどんな思いで父と結婚して沖縄を出たのか。祖父母やおじ・おばたちはどんな思いで送り出したのか。母を愛し、寛容である父と母のあいだにある偏った力関係について。その不均衡は日本とアメリカ、沖縄と日本の関係でもあることを。 巻末近くの、笑顔で抱き合う著者と母の写真に胸を打たれる。 [書き手] 永江 朗 フリーライター。 1958(昭和33)年、北海道生れ。法政大学文学部哲学科卒業。西武百貨店系洋書店勤務の後、『宝島』『別冊宝島』の編集に携わる。1993(平成5)年頃よりライター業に専念。「哲学からアダルトビデオまで」を標榜し、コラム、書評、インタビューなど幅広い分野で活躍中。著書に『そうだ、京都に住もう。』『「本が売れない」というけれど』『茶室がほしい。』『いい家は「細部」で決まる』(共著)などがある。 [書籍情報]『語れ、内なる沖縄よ――わたしと家族の来た道』 著者:エリザベス・ミキ・ブリナ / 翻訳:石垣 賀子 / 出版社:みすず書房 / 発売日:2024年02月20日 / ISBN:4622096684 毎日新聞 2024年6月15日掲載
永江 朗