デジタル発『SPY×FAMILY』メガヒットの衝撃 紙のマンガ雑誌はどこへ
中野 晴行
戦後マンガ史80年の中で、雑誌や単行本というメディア(媒体)の移り変わりは、コンテンツ(作品)の発展に大きな影響を与えてきた。紙芝居や貸本マンガの時代から、マンガ雑誌の隆盛期、そしてデジタル化に至るまで、マンガはどんな進化を遂げてきたのか。連載の1回目は現在進行形のデジタル化によるマンガの変化とマンガ雑誌の現在を追う。
「ヒットは紙雑誌から」の常識覆す
2019年、マンガ界にある事件が起きた。集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載していた『SPY×FAMILY』(遠藤達哉作)のコミックス第1巻が発売から22日で30万部を突破したのだ。これは同時期に発売されたコミックス第1巻の中ではダントツの数字だった。 本作は、この年のマンガ評ムック『このマンガがすごい!2020』でも「オトコ編」1位になったほか、数々の賞を受けた。20年12月発売のコミックス6巻は初版が100万部に達した。この時代にはまだ、初版100万部クラスのメガヒットマンガは紙の雑誌からしか生まれない、と半ば常識のように考えられていたから、アプリ発の成功に驚きの声が広がった。
スパイアクション+コメディー 多メディア展開
作品の舞台は、隣り合うオスタニア(東国)とウェスタリス(西国)が情報戦を繰り広げる架空の世界。オスタニアの精神科医ロイドは養女のアーニャと妻のヨルとの3人暮らし。しかし、彼らは本物の家族ではない。ロイドはウェスタリスのスパイ。アーニャは超能力者、妻のヨルは殺し屋だった……。スパイアクションにコメディー要素が加わった一種のファミリードラマという複雑な設定だ。 2022年4月からはテレビ東京系でテレビアニメ版がスタート。23年12月には劇場版アニメも公開された。さらに、23年3月にはミュージカル版が東京の帝国劇場などで公開。ゲームやポッドキャストのラジオドラマにもなった。この年の日本漫画家協会賞コミック部門大賞に輝いたほか、24年10月発売の14巻までの累計発行部数は3600万部を突破した。