なぜ仙台育英は日大藤沢との壮絶10人PK戦を制して全国高校サッカー選手権30年ぶりの8強進出を果たしたのか?
1分が表示された後半アディショナルタイムが残りわずかになった場面で、仙台育英(宮城)を率いる城福敬監督が、待っていましたとばかりに3枚目の交代カードを切った。 等々力陸上競技場で日大藤沢(神奈川)と対峙した、3日の全国高校サッカー選手権3回戦。キャプテンを務める左サイドバック、小林虎太郎(3年)に代わってFW中山陸(3年)を投入した采配こそが、天国と地獄とが何度も交錯する、壮絶なPK戦へと至る序章だった。 中山がピッチに立った時点でスコアは0-0だった。しかし、決してゴールを奪うための交代ではない。サンフレッチェ広島の城福浩監督の実兄で、2010年2月から仙台育英の指揮を執る城福監督は、苦笑しながら「PK戦になると想定して代えました」と舞台裏を明かす。 「PKが苦手なんですよ。蹴るコースが(相手のゴールキーパーに)はっきりとわかってしまうし、思い切り蹴れと言えば、バーンと(ゴールの枠を)外しちゃうので」 キャプテンマークを守護神・佐藤文太(3年)に託し、ピッチを後にした小林も「陸が準備をしていたので、代わるのならば自分だと思っていました」と納得の表情で振り返る。PK戦の末に勝利した五條(奈良)との1回戦でも、小林は後半終了直前にベンチへ退いていた。 「前回の選手権期間中にPK練習をしていたときに、すごく外してしまったので。監督からは『ナイスプレーだった』と言われました。『あとは仲間を信じるだけだ』とも」 PK戦を見越して、試合終了間際にPKストップに長けたキーパーを投入する采配は、高校サッカーでよく見られる。だからこそPKを不得手とする選手をベンチへ下げるそれは異彩を放つが、前後半を通じて仙台育英の唯一のシュートを放っていたFW佐藤遼(1年)を、FW山口蓮(3年)へと代えた後半31分の采配もまたPK戦へ備えたものだった。城福監督が続ける。 「佐藤もPKが苦手なんです。しかも、疲れからかあいつの突破が相手に引っかかっていた時間帯だったので。残り時間が5分を切ってからは、あいつは大丈夫、あいつはちょっと心配、あいつは不安だけど蹴らせよう、と頭のなかで計算しながら戦況を見ていました」