なぜ仙台育英は日大藤沢との壮絶10人PK戦を制して全国高校サッカー選手権30年ぶりの8強進出を果たしたのか?
交代枠が2つ残っていたなかで、五條戦で退場処分を受け、高川学園(山口)との2回戦が出場停止だったDF中川原樹(3年)の交代も考えた。汚名返上への誓いが気負いへと変わり、メンタルに大きく左右されるPKに影響を及ぼすのでは、と危惧したからだ。 「ただ、それはやりすぎじゃないか、と。そもそも、樹はPKをそれほど外していなかったので」 常日頃から見てきた所作なども踏まえて、PK戦のオーダーも決めた。山口は3番手。中山は「ヒーローになってこい」という檄とともに5番手にすえた。さらにはサドンデスへの突入も見越して、8番手以降には「心配」や「不安だけど蹴らせよう」と判断した中川原、MF明石海月、MF島野怜(ともに1年)を並べた。 果たして、天国と地獄とを分け隔てるPK戦で異変が発生した。5人連続で成功させた先蹴りの仙台育英に負けじと、後蹴りの日大藤沢も5人全員が、すべて佐藤が動く逆を突いて成功させた。偶然ではなく必然だったと、五條戦で2本のPKを阻止した守護神が言う。 「日大藤沢のPKは本当に上手くて。自分が読んだ方向へ先に飛んでしまうと、相手は蹴る直前になって足首の角度を変えて、ボールの方向をも変えてしまうんです」 サドンデスに突入しても仙台育英、日大藤沢ともに2人ずつが成功させる。迎えた8人目。中川原の左足から放たれた一撃はコースがやや甘く、右へ跳んだ相手キーパーにキャッチされてしまった。絶望感に駆られ、その場で仰向けになって顔を覆った中川原へ、駆け寄った佐藤が檄を飛ばした。 「大丈夫だ。オレが止めるから戻れ」 まさに有言実行とばかりに、佐藤は日大藤沢の8人目、DF古谷陸(3年)のPKを阻止する。決められはしたものの、7人目のDF宮川歩己(2年)の一撃を左手に当てていた佐藤は、短い時間のなかで相手のテクニックに対応する策を見つけ出していた。 「駆け引きをして、そっち(自分が跳ぶ方向)へ蹴らせるようにしました。体の向きでフェイントをかけたりして、僕がどちらへ飛ぶのかを相手に迷わせるような感じで」