東大→トヨタ→住所不定無職から「人口4000人の町」で起業。「この世界はロジカルに解決できることばかりじゃない」
オセロの隅っこ、取ったもんが勝ち
小さな町だからこそ課題が見えやすく、サービスも実装しやすい。そして、その結果もダイレクトに出てくる。地方で挑戦することの面白さや意義は、そこにある。ミーツのサービスに注目する自治体は増え、現在は北海道外でも実装されているほか、北海道内の別のエリアでも導入を検討しているところが複数あるという。 そしてさらなる展開を目論み、資金調達を考えたときに、地元企業であるコープさっぽろとの縁がつながった。 「コープさっぽろは、宅配、配食、健康運動サービス、エネルギー事業に至るまで、生活に密着した事業すべてをおこなっています。まさにミーツと同じ方向を向いている、と感じました。実際に北海道民の約8割から出資を受けているほどニーズが高く、協同組合も地域の人のために働くという理念を持っており、新しい資本主義を体現しているといえます」 そして2023年7月に、ミーツはコープさっぽろの関連会社となり、成田もコープさっぽろ組織本部の地域政策室室長に就任。北海道の困り事を解決するための、プロデューサー的な役割も兼任するようになった。 買い物困難や給食事業の限界、地域の移動手段がない、移住者が来ない、などの問題をどう解決するか。地域の困りごとについて、コープさっぽろやミーツなど、オールコープさっぽろのリソースを使って何ができるかを検討し、行政と官民連携で取り組んで持続的な北海道のまちづくりに貢献するきっかけを作っていく。 「ミーツを始めて、『これからも厚真町で暮らしたい』と言ってくださる高齢者の方が増えました。こういったサービスがなければ、札幌市や千歳市のような近隣で栄えている市に引っ越そうと思っていたと。 しかしただ引っ越したからといって、それは根本的な解決にはなりません。やはり地域ごとに暮らし続けられる仕組みを作ることが、大きな未来に繋がると思っています」 そのような思いが認められ、去る12月某日、ミーツは令和6年度地域づくり表彰にて、国土交通大臣賞を受賞した。共助型のデジタルプラットフォームを地域に提供し、社会課題解決基盤を構築した点が大きく評価されたのだ。 成田は最初、厚真町など地域での取り組みを「オセロの隅を取るようなもの」と表現した。小さな一個だけれど、後から徐々に効いてくる。いま、隅っこに置いたオセロが波紋のようにゆっくりと広がり、少しずつ世の中に影響を与え始めているところだ。 「ビジネスのアイデアを思いついたら、まずは作ってみればいい。いいサービスなら、自然と人はついてくるから」と成田は言う。応援してくれる人がセカンドペンギンとなり、変わらないと思っていた世界がどんどん変わっていく。成田はいま、その渦中にいる。 どんな取り組みも一貫して、成田のベースにあるのは、境界線をかき混ぜる=マドラー、だ。境界線が消え、分断されていた世界がかき混ぜられたとき、また新たな化学反応が起こる。これから成田が生み出す世界がどのようなものか、しっかりと見続けたい。 (取材・文:仲野聡子、撮影:濱屋壮佑、編集:中島日和)
仲野聡子