錦糸町の大人気「コの字酒場」の店主が紆余曲折しながら身につけた"攻めの姿勢"。「ラストオーダーこそ力を入れるんです」。
■「良いものをもっと」 人気ってほんとうにわからない、と以前コンサートで大物歌手がMCで発言していた。店の人気もまたしかり。 原因は複合的だったと工藤さんは分析する。同様の形態の店が近隣に開いたり(あと、店主がイケメンの店が開いたり、と工藤さんは笑ってつけくわえた)、他店との比較で価格が客にとって高く映るようになったり......。でも、工藤さんは一番の原因は、 「僕がね、ちょっと調子にのってたんですよね。たしかに工藤にお客さんがついていた部分があったと思うんです。それで、僕が調子にのったら、お客さんは離れていっちゃったわけで。つまり、いちばん大事な、お店そのものにお客さんが、ちゃんとついてくれてなかったんですよね」 それから工藤さんは、新たに店長職のスタッフを置き、自ら店長をやって、前に前に出ていくことをやめた。お酒も1合売りをやめて、たくさんの種類を楽しめるように小さな量で提供するようにした。もちろんそのほうが手間も酒の管理も大変になるが、 「そういうところでちゃんとしなくちゃ店に客はつかないんですよね」 しかも、客足が衰え売り上げが下がっている状況ながら、敢えて 「どんどんお酒も仕入れたんです。酒屋さんにじゃんじゃん注文して良い酒をどっと仕入れて」。 さらには、料理の材料も、 「良いものをもっと、という姿勢で攻めてんですよね」。 やっぱり守勢に入ってはだめなのだ。私も日頃、攻めの姿勢こと大事と思って、酔っ払っているのを自覚しながらもう一杯やってしまう。これがいけない......。 もともと旨くて良い酒が呑める店だったが、こうなると負けるわけがない。店は再び活況を呈し、それまで以上に繁盛するようになった。だが、コロナ禍が、また状況を変えた。 「2020年に、開業して初めて、ひとりもお客さんが来ないことがあったんです」 初めての、それも想像を遥かに越える状況だった。たしかに、あのわいわいといつも賑やかな「井のなか」に客が一人もいない状況なんてまったく想像できない。
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