AI需要追い風に…トヨタ発ベンチャー、半導体向けシリカ増産でV字回復なるか
トヨタ自動車発ベンチャーのアドマテックス(愛知県みよし市、中野修社長)は、生成人工知能(AI)ブームを追い風に、2024年度の売上高で過去最高の230億円(23年度約170億円)を目指す。AIサーバーなどに使う半導体封止材用球状シリカの世界最大手として恩恵を享受し、22、23年の市況低迷からV字回復を見込む。M&A(合併・買収)や工場新設で増産体制構築も急ぐ。(編集委員・鈴木岳志) 【写真】アドマテックスが手がける球状シリカ製品 アドマテックスの業績は1990年の設立以来、半導体の封止材や基板向け球状シリカ事業で順調に成長してきた。ただ、22年夏からコロナ禍の巣ごもり需要の反動でパソコン・スマートフォン販売が落ち込み、半導体市況が悪化。同社も21年度の売上高208億円をピークに、2年連続で前年割れだった。 同社の安部賛会長は「AI半導体は基板が大きくチップを積層するため、我々の製品がより多く使われる。AIはさらに伸びるので、25年度の業績はさらに伸びるだろう」と特需継続に期待する。ナノメートル(ナノは10億分の1)からマイクロメートル(マイクロは100万分の1)サイズの球状シリカは、樹脂に混ぜることでICチップが発する熱による樹脂の膨張を抑えられる。 特に生成AIに用いる半導体パッケージには画像処理半導体(GPU)や広帯域メモリー(HBM)が使われ、半導体を積層してつくる。当然ながら高さなどに制限があり、極端に狭い隙間に樹脂を流し込まなければならず、高精度で多様な粒径が強みの製品力が生きている。 中野社長は「直接の顧客である樹脂メーカーは200―300社あるが、各社が得意とする用途の違いで状況がだいぶ違う。AI半導体にうまく入り込んだ会社は、今とんでもない数の注文が急に来ている」と業界の優勝劣敗を感じ取る。 今回のAIブームは当面続きそうで、トップメーカーとして生産能力の増強が求められる。同社は23年11月に東海ミネラル(愛知県瀬戸市)からシリカ事業を買収した。粒径の大きい廉価品を主に手がけており、製品ラインアップ拡充が目的だ。加えて、工場取得により生産量は全体で従来比30―40%増の年間1万7000トンになる。 「顧客はほぼ同じなので、もともと別々に供給していたシリカを最初から混ぜて出せれば付加価値を高められる。それを新規品として(買収事業承継子会社の)アドマテックス美濃(岐阜県可児市)から供給していく」と、安部会長は今後のグループ戦略を語る。 また、市況低迷でブレーキを踏んでいた岐阜県土岐市の新工場「土岐南事業所」計画も加速させる。当初の操業開始時期は26年だったが、現在は27年末を見込む。中野社長は「当時は顧客からの需要に慌てて工場を建てないといけないと計画した。それが大体2年遅れで巻き返した感じだ」と内情を説明する。 同社はAI需要や新工場稼働などの押し上げ効果により、27年度に売上高300億円を狙う。雌伏の2年を越えて、再び成長路線をまい進する。