幼い出会いは『源氏物語』のあの名シーン!叫びそうになった『光る君へ』衝撃の1 話を振り返る
大河ドラマファンの心は大丈夫
雨漏りが激しい、あばらや一歩手前のヒロインの家。まひろ(落井実結子)が掃除をしながら、父・藤原為時(岸谷五朗)が弟・太郎(湯田幸希)に漢詩漢文の講義をするのを、楽しそうに聴き諳んじている。後の場面、為時の「お前が男であったらよかったのになあ」という言葉と共に『紫式部日記』で読んだやつだ!と見ているこちらも嬉しくなる場面だった。 母・ちやは(国仲涼子)の着物を食べ物に替えねばならない、貧しいゆえに下男下女が逃げ出すまひろの家に比べ、のちの藤原道長……三郎(木村皐誠)の住む館の豪壮なこと。 政界の実力者・藤原兼家(段田安則)、その嫡妻・時姫(三石琴乃)、長男・道隆(井浦新)とその妻・高階貴子(板谷由夏)、次男・道兼(玉置玲央)、娘・詮子(吉田羊)が揃った場も華やかそのものだ。 吉田羊が演じる藤原詮子、入内当時15歳。吉田羊が15歳……大丈夫だ。過去、浅井江6歳を24歳の上野樹里が、源義朝(武者丸)7歳を37歳の玉木宏が演じたのを観てきた大河ドラマファンの心には、さざ波ひとつ立たぬゆえ……これは大河あるあるなのだ。 今回も、物語上ずっとずっと先のためのキャスティングだと納得している。 そして、あさきゆめみし世代は知っているのだ。高貴な女性は年頃になると、父や兄弟であっても顔をはっきり見せたりはしないと。几帳などへだてを作り、扇で顔を隠して会うのだと。藤原兼家邸で入内直前(嫁入り前)の娘が、ガッツリ家族と共に座り談笑するシーンが序盤にあったことで、OK、ドラマですね。現代の映像作品ですものね。という心構えができた。
道兼の暴れぶりが心配に
それはそうと、藤原兼家(段田安則)の練れた政治家ぶりに、ぞくりと背筋が寒くなった。 彼が一族の者たちについて語るとき、どれほどにこやかに、あるいは穏やかにであろうと、「誰がどう役に立つのか」という話しかしていないのである。 「嫡男道隆を穢れなき者にしておくために、泥をかぶる者がおらねばならぬ。そういう時は道兼が役に立つ」 道兼には汚れ仕事を担当させよう、とも聞こえる。 そして、道兼の乱暴狼藉。汚れ仕事を任せられる男……とはいえ、初回で一手に引き受けなくてもいいのよ? と心配してしまうくらいの暴れぶり。父の関心を得たくて、母の愛を自分ひとりに注いでほしくて、それが叶えられず鬱屈した心は弱い者、目下の者への暴力へと向かう。 母として兄弟の仲を取り持とうとする時姫の心痛、察するに余りある。 ところで、史実の道兼がこのように暴力癖があったのか、私は寡聞にして知らない。彼の息子である兼隆、兼綱には物騒な事件を起こした記録が残っているのと(『小右記』)、後に道兼自身が引き起こすある歴史的出来事とを鑑みてのキャラクターかもしれない。 さらに、もうひとりの主人公ともいえる三郎、のちの藤原道長。のんびりやで優しくて。 父・兼家いわく「ぼーっとしてやる気がないが、物事のあらましが見えている」。 トウの一族…つまり藤の一族、藤原家をからかう演目の散楽を、そこが面白いのだと夢中になる彼。自分達が世間からどう見られているのかということを意識する、客観的な視点は、政治家にとって欠かせぬものではないだろうか。