「恐怖政治の独裁者」ロベスピエールが、今なぜ再評価されるのか――「清廉なポピュリスト」の光と影
「清廉なポピュリスト」の出番は再び来るのか
以上のように「代表者と人民の透明な関係性」を追求してきたロベスピエールに対して、著者の評価は両義的である。一方では、あくまで「代表の原理」を擁護しつつも、民衆が自らの主権を行使する機会としての請願権を要求し、また誰よりも政治家が「美徳」を備え、透明=誠実でなければならないと考えていたロベスピエールを、著者は高く評価しているように見える。とはいえ他方では、「とにかく純粋というか実直で融通が利かないため、見ていて息が詰まる」として、「今、ロベスピエールのような人に現れて来てほしいとは思えない」とも「あとがき」で述べている。評価は読み手に委ねられていると言えよう。 「選挙イヤー」と呼ばれた2024年、われわれは実にさまざまな人物が指導者に選ばれるのを目の当たりにしてきた。どのような指導者を望むのか、「清廉なポピュリスト」たるロベスピエールを通して考えてみるのは意義があることだろう。 最後に、本書はフランス革命を描いた物語としても、とても読みやすいことを付記しておきたい。マラやダントン、死刑執行人サンソン、恋人テレーズのためにロベスピエールに反旗を翻すタリアンといった人物もいきいきと描かれる。また、本書の終盤で著者は、ロベスピエールの理想を挫折させたものを解き明かし、そしてロベスピエールが「恐怖政治」に傾斜していく原因となった人物を名指ししている。このあたりはさながら小説のようでもあり、ぜひともご自身で読んでいただきたい。 ◎板橋拓己(いたばし・たくみ)1978年栃木県生まれ。2001年北海道大学法学部卒業、08年同大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。成蹊大学法学部教授などを経て、22年より東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授。専攻は国際政治史。著書に『中欧の模索――ドイツ・ナショナリズムの一系譜』(創文社、2010年)、『アデナウアー――現代ドイツを創った政治家』(中公新書、2014年)、『黒いヨーロッパ――ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋(アーベントラント)」主義、1925~1965年』(吉田書店、2016年、日本ドイツ学会奨励賞受賞)。『分断の克服1989-1990――統一をめぐる西ドイツ外交の挑戦』(中公選書、2022年、大佛次郎論壇賞受賞)など。
板橋拓己