漁師などから直接「水産業のいま」を学び、3カ月後、レストランで料理を振る舞うプロジェクト「THE BLUE CAMP」って?
「応援しています」は人事。一緒に同じ方向を向いて行動してほしい
――ここからは、「Chefs for the Blue」の代表理事である佐々木さんにお話を伺います。そもそも、「Chefs for the Blue」を立ち上げるきっかけはなんだったのでしょうか。 佐々木さん(以下、敬称略):数年前に漁業の現場への取材を通して、初めて魚が減少し続けている現状を知り、衝撃を受けました。このままではまずい、なんとかしなくてはいけないと、お付き合いのあったシェフたちに声をかけて、2017年に立ち上げた勉強会が「Chefs for the Blue」の活動の始まりです。 これまで生産者、流通、レストラン、消費者などさまざまな対象に向けて、日本の水産資源を守り、食文化を未来につなぐための啓発活動を行ってきました。 その中で、未来の海と一緒に生きていく次世代の方々と活動してみたいという思いから生まれたプロジェクトが「THE BLUE CAMP」です。 ――「THE BLUE CAMP」では漁船に乗って定置網漁を間近に見学し、魚市場の視察、水産庁の方との対話など、さまざまな水産業の現場に触れ、レストラン研修を経て、ポップアップレストランではメニューの考案、調理、提供まで自分たちの手で行っています。このアイデアはどのようにして生まれたものでしょうか? 佐々木:さまざまな活動を続ける中で、水産サプライチェーン(※)はとても複雑で、全体を俯瞰できる人が少ないことが課題だと感じていました。 水産資源を未来に残すことを考えると、漁業者、流通業者、小売業者、消費者が互いに理解をして、同じ方向を向いて行動しなければなりません。 そのため、今回のプロジェクトでは、水産サプライチェーンの各所を直接見て、体験し、プレーヤーのみなさんと対話してもらうことを中心にプログラムを構成していきました。 ※ある製品が、原料の段階から消費者に至るまでの全過程のつながりのこと。参考:コトバンク 佐々木:また、レストランは「メディア」であり、生産者と消費者とをつなぐことができる存在だと考えているんです。そんなさまざまな可能性を秘めた空間で、水産業を取り巻くさまざまなストーリーをお届けできたらと、プログラムの最終出口を「レストラン」としました。 ――どんな学生から応募があったのでしょうか? また、印象に残っているエピソードはありますか? 佐々木:対象は高校生、専門学校生、大学生なのですが、各々学んでいる領域はさまざまです。生物としての魚が好きな人もいれば、食べ物としての魚が好きな人、食文化に興味があり、海を取り巻く問題に危機感を覚えている人、海についてもっと学びたいという農学部の学生など、本当にさまざまなんです。 2023年も2024年も、学生たちがよく口にしていたのが、「『応援しています』と言われるのが本当に嫌だ」という言葉でした。 「私たちは、当事者として海と向き合ってほしい、あなたに変わってほしいとメッセージを発信しているのに、『応援しています』と言われると、人事と思われているようで悔しい」、という声を聞きます。 ――それを聞いて、佐々木さんはどのようにお話されましたか? 佐々木:人が意識や習慣を変えるには、まずは「知る」、そして「共感する」、さらにその一部の人が「応援する」。その次の次くらいに、ようやく「自分たちの行動を変える」というステップがあります。 これまでも「Chefs for the Blue」を通して啓発活動を続けてきましたが、どれだけの人を変えられたかと聞かれたら、心もとないです。 その上で、「たった2時間のレストラン体験で、『知る』『共感する』『応援する』の3つのステップを一気に上げたあなたたちはとても素晴らしくて、胸を張っていいんだよ!」と伝えました。 「人事と思われているようで悔しい」というのは、私たちも実感していることですし、とても重い言葉だと思います。 ――お客さまの反響はいかがでしたか? 佐々木:学生たちの熱のこもったプレゼンに涙を流される方もいらっしゃいましたし、ある水産系の仕事に携わる方からは「これまで日本では資源の課題について注目されず、自分たちだけでなんとかしなければと必死で活動してきたが、次の世代にもこんなに考えてくれる人がいることに感動した」とお話しされていました。 ほかにも、「『知ってもらうことが一番重要』という言葉に感化され、身近にいる人に伝え、SNSでも発信してみました」「海資源の現状について一人でもでも多くの方に知ってもらえたらと、イベントで配布された冊子を、会う人会う人に見せています」など、実践されている方もいるようです。