革新機構・田中社長が辞任会見(全文1)この水準の報酬が欲しいとは一度も言ってない
田中社長「バイブル(報告書)の実現に向かって進んだ」
田中:この報告では投資人材の育成に関しては、日本の投資人材の厚みを増すためには、短期的には世界中から人材を獲得することも視野に入れ、とか、日本に世界水準の投資人材を呼び込むには給与だけでなく、トッププレーヤーが挑戦できる魅力的な職場の提示が必要だというふうにも書かれています。 私ども代表取締役に就任した4名は当初、この報告書をバイブルと呼んでいました。そしてそのバイブルに書かれたことを愚直に実現するということで、その実現に向かって進むことにしておりました。また産業競争力強化法第120条第2項には、専ら出資を行う業務に従事する職員の給与、その他の処遇については、優秀な人材の確保、ならびに若年の出資専従者の育成および活躍の推進に配慮して行うものとするという条文が挿入されていまして、この条文に関しましては、国会におきまして政府委員が民間ファンドと比較しうる報酬水準を確保したいと答弁されています。 こうしたことから当初、私ども9人は、投資事業という金融機能を活用することによってわが国の将来の産業競争力を強化し、新産業を創出するという高い国家的な目標に強い共感を覚えたものでした。そしてその後、投資基準の策定に入りまして、投資基準では機構は事前ではなく事後評価、および成果主義の徹底、現場での迅速かつ柔軟な意思決定の確保等を通じた投資機能の強化を図りながら、政策的に重要な分野での投資価値増大、処分等を通じ、投資成果の最大化を目指すことで、国等の財産を預かる投資機関としてフィデューシャリー・デューティーを果たす、とされています。 こうした政策上の目標は非常に高いものというふうに思っておりましたけれども、そうした政府方針にのっとりまして、この会社のミッションステートメントを作りました。それが、私たちは最終受益者本位、つまり国民本位ですね、最終受益者本位の投資活動を通じ、産業競争力の強化と未来の産業の育成に寄与し、そして長期的なリターンの最大化を実現することをその使命としています、というものです。われわれはその実現に向かって歩み始めました。 また経産省との間では、毎週金曜日9時から午前中3時間のJIC連絡協議会を設置することを私どものほうから提案いたしまして、具体的な案件の見込みであるとか民間投資案件など、さまざまな活動状況を毎週報告しておりました。当方サイドは14、15人で、経産省サイドは糟谷官房長以下数名の定例会議でありました。コミュニケーションはまったく問題ありませんでした。 そうした中、金子副社長の大活躍によりまして、西海岸におきましてバイオ創薬に関するファンドの設置案件が動き出します。世界の創薬の半分はアメリカのスタートアップとされる中、この案件は投資基準に合致するのみならず、極めて有力な人材が参加を申し出てくれました。ただシリコンバレーでの人材獲得競争は非常に激しいものでございまして、ファンド設立に関する意思決定が遅れればただちに人材を失うという、そういう状況であります。私と金子副社長は毎日連絡を取り合いまして、私は日本側の調整を担いました。しかしながら経産省の理解や動きは極めて遅く、産業競争力強化法に規定されている財務省との協議は進まないどころか、ある日、経産省は、財務省から、役員報酬に関する協議が終了しない限り西海岸ファンドに認可に関わる協議には応じないと宣告されてしまいます。 これで判明しましたことは、第1に9月21日手渡されました報酬内容は、短期業績報酬部分を中心として最終的に政府部内での調整が終わっていなかったということです。第2に、西海岸ファンドに関する協議が開始されないと金子副社長がせっかく集めてくれた極めて有能な人材が全て雲散霧消するという事態に直面しまして、そして金子副社長ご自身のレピュテーションに非常に深刻な影響が出るという状態でございました。 そこで私自身が財務省に出向きまして、事情を説明して、西海岸ファンド設立に関する経産省との協議開始を要請しまして、そしてようやく財務省側が経産省との協議に応じる、そうした背景がございました。その結果ようやく10月24日の認可にこぎ着けたという経緯があります。このスピード感でなければ人材は雲散霧消しております。