「ロックンビリ―S1(スーパーワン)」店主・嶋崎順一さんがラーメンの天才である所以とは?
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。 山本益博のラーメン革命!
嶋崎順一さんとフェラン・アドリアの共通点とは
兵庫県尼崎の塚口にある「ロックンビリ―S1(スーパーワン)」で、店主・嶋崎順一さんが作る革命的ともいえる斬新なラーメンを食べた時、唐突にも思い出したのが、20世紀末から今世紀にかけて、世界の料理界を席巻したスペインはバルセロナ近郊ロサスの郊外にあった「エルブリ」のシェフ、フェラン・アドリアだった。 ラーメンファンならすでにご存知だが、嶋崎さんは、鶏と水からのみで出汁をとったスープに「鶏油(チーユ)」をかけまわす一杯を考えだし、その影響を受けたラーメンが今や日本中に広まっている。そればかりか、「昆布水ラーメン」というまったく新しいつけ麺を生み出したのも彼である。
フェラン・アドリアは、16歳の時、サッカー選手になる夢が断たれて、ロサス郊外カーラ・モンジョイにあるレストラン「エルブリ」に料理見習いとして入った。 元音楽プロデューサーだったオーナーのジュリ・ソレールが、アドリア青年の才能に眼をつけ、フランスの3つ星レストランに連れて行っては、店で食べた料理の再現をさせた。その出来栄えの素晴らしさを目の当たりにしたオーナーは、店のシェフに抜擢するため、最後に、コートダジュールはニースの「ネグレスコホテル」で研修させた。 その研修最後の日、ホテルのメインダイニング「シャントクレール」のシェフ、ジャック・マキシマンがコートダジュールの海岸に研修生全員を集めて、訓示した。その最後の締めくくりの言葉が「人の真似はするな!」だった。
どんな料理でも模倣、再現することに長けていたアドリア青年は、この言葉に衝撃を受け、「エルブリ」に戻って、シェフに就くと、今まで誰も思いつかなかった「エスプーマ」という、素材の香りをそのままに、なんでも「泡」に変えてしまう調理器具を生み出し、まったく新しい料理を考え出し、一世を風靡したのだった。 私は2011年に「エルブリ」が店を閉めるまで、7回訪れたが、その都度今まで食べたことのない料理に出会い、痺れ、感動した。フェラン・アドリアの仕事ぶりに触れ、天才は「直感する」「創造する」「変貌する」ということを身をもって実感した。