MCI(軽度認知障害)は1年で1割が認知症に―移行予防のために知るべきこと、すべきこと
◇適切な対策で認知機能は取り戻せる可能性が
先にお伝えしたように、MCIから認知症に移行する人が年間約1割程度いる一方で、年間約16~41%の方は正常な状態に回復することも分かっています。そのため、自身や家族にMCIの兆候があることに気付いたら、早めに対策を始めることが認知症予防のカギとなります。 認知症の予防には科学的な効果が認められている対策方法がいくつかあります。1つは、生活習慣病の改善です。糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満(メタボリックシンドローム)、脳卒中などの生活習慣病は認知症のリスク因子とされています。これらを指摘されている場合には、医師の指示の下で適切な治療を行い、しっかりとコントロールすることが大切です。 また、適度な運動は、認知機能の向上や認知症のリスク低減に有効であることが分かっています。ウォーキングなどの軽い有酸素運動、スクワットなどの簡単な筋力トレーニングを積極的に行うとよいでしょう。日々の生活の中においても、エレベーターやエスカレーターではなく階段を使うなど、できるだけ体を動かすことを意識してみてください。また、運動と認知課題(計算やしりとりなど)を組み合わせて行う「コグニサイズ*」によって高齢者の認知機能が改善される効果も示されています。 バランスのよい食事を心がけることも認知症の発症予防に有効です。魚・肉・卵・豆・野菜・果物・乳製品などさまざまな食品を摂取することが、認知機能低下の抑制に効果があることが研究によって明らかになっています。そのほか、社会から孤立してしまうことは認知症の発症リスクとなるため、積極的に外出したり、人とのコミュニケーションをとる機会を持ったりすることが大切です。 *コグニサイズ:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが開発したプログラム。コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語。
◇回復の可能性があるうちに一度医療機関へ
もの忘れがひどくなってきたという自覚があっても、「認知症と診断されたら怖いから」「きっと歳のせいだろう」など、さまざまな理由で医療機関を受診せずに放置している人は多いかもしれません。また、なんとなく違和感を覚えながらも、毎日の生活に支障をきたすほどではないので様子を見ている人もいると思います。 ここまでお伝えしてきたようにMCIは放っておくと将来的に認知症に進行するリスクがありますが、MCIの段階であれば認知機能はまだ回復する可能性があります。もしも気になっている症状があれば、認知症予防の対策を行うとともに、まずは一度医療機関で医師の診察を受けてみることをおすすめします。受診先としては、認知症疾患医療センター*に指定されている医療機関や、もの忘れ外来を開設している医療機関がよいでしょう。かかりつけのクリニックがあれば、一度相談してみてもよいかもしれません。 いつまでも楽しく・健やかに生きるために「認知症になってから」ではなく、今のうちから適切な対策を始めてみましょう。 *認知症疾患医療センター:認知症の鑑別診断、身体合併症と行動・心理症状への対応、専門医療相談などを行う認知症専門の医療機関。
メディカルノート