接続するのは何台? 家の回線の速度は? 4つのポイントで選ぶ最新Wi-Fiルーター買い替えガイド
メッシュ? Wi-Fi 7? 10Gbps? 古くなったWi-Fiルーターを買い替えようと思っても、種類や製品が多すぎて、どれを選んだらいいのかがわからない人も少なくないだろう。本稿では、こうした悩みを解消するために、Wi-Fiルーターを買い替える基準を紹介する。4つの質問に答えるだけで候補を絞り込める表も用意したので、製品選びの参考にしてほしい。 【画像】Amazon.co.jpでWi-FiルーターをIEEE 802.11be(Wi-Fi 7)とIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)でフィルタリングしたところ、222アイテムがヒットした ■ 選択肢は100モデル以上! Wi-Fiルーターは、IT関連製品の中でもアイテム数が多い製品ジャンルのひとつだ。 国内で製品を販売しているメーカーは10前後、主要メーカーが販売している現行モデルをざっと数えても100以上も存在する。 本誌の「Wi-Fiルーター見直しの日」をはじめ、総務省やセキュリティ機関、メーカー各所の啓蒙活動によって、「セキュリティ上のリスクがある古くなったWi-Fiルーターは買い替えるべき」という認識が広まったことで、「今年あたり、新しいWi-Fiルーターを買おうかな……」と思っている人も少なくないはずだが、いざ、この選択肢の多さを目の当たりにすると、どう選べばいいのかがわからなくなってしまうかもしれない。 しかも、今年は特に迷う要素が多い。Wi-Fiには「Wi-Fi 6E」「Wi-Fi 6」(IEEE 802.11ax)」、「Wi-Fi 5」(IEEE 802.11ac)などの規格が存在するが、今年になって最新規格である「Wi-Fi 7」(IEEE 802.11be)対応の新製品も続々と各メーカーから登場しており、選択肢がさらに広がって、選び方が難しくなっている。 何を基準に選べばいいのか? どこを見て買えばいいのか? 価格はどれくらいが適正なのか? 具体的な選び方のコツを紹介する。 ■ 今、押さえておくべきWi-Fiの基礎知識 まず、Wi-Fiルーター選びの大前提として、基本的な知識をおさらいしておく。 □「Wi-Fi ○」の数字が違っても問題なく接続できる 前述したようにWi-Fiには、Wi-Fi 7/6E/6/5/4……と複数の規格があるが、これらの規格間の互換性が確保されているため、どの規格に対応したWi-Fiルーターを選んだとしても、PCやスマートフォンが「つながらない」という問題に悩まされることはない。 例えば、アクセスポイント(Wi-Fiルーター)がWi-Fi 7対応でPCがWi-Fi 6対応でも問題なくつながるし、反対にアクセスポイントがWi-Fi 6対応でPCがWi-Fi 7対応でも接続できる。他の組み合わせも同様だ。 このため、買い替えに際して、「つながるかどうか」という点に悩む必要はない。 Wi-Fi 7/6E/6/5/4の違いは、通信速度や通信効率などの内部的な通信のしくみになる。もちろん、上位の規格の方が高速かつ多くの台数を接続しても快適に利用できるため、今ならWi-Fi 7を選ぶメリットが大きい。 例えば、Wi-Fi 7だけで利用できる次のような機能は、Wi-Fi 7対応のアクセスポイントと、同じWi-Fi 7対応のスマートフォンやPCを組み合わせたときのみ利用できる。 ・4096QAM:電波に乗せる信号の密度を上げて高速化する技術 ・320MHz幅:6GHz帯で従来の160MHzの2倍の帯域を使って高速に通信する技術 ・MLO:2.4GHz、5GHz、6GHzを組み合わせて高速、低遅延の通信を実現する技術 異なる規格の組み合わせの場合、こうした上位の規格の機能が使えなくなるのがデメリットとなる。 □使える周波数帯は多い方が優れているが、少なくても問題なく使える 利用できる周波数帯(バンド)について、デュアルバンド(2つの周波数帯)やトライバンドと(3つの周波数帯)いう表現がされることがある。対応する周波数帯の違いは、厳密にはこだわるべきだが、今回解説する製品選びでは、「必ずこちらでないと」となる判断のポイントではない。 Wi-Fiでは、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯の大きく3つの周波数帯を利用して通信する。このうち、Wi-Fi 7とWi-Fi 6Eは2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯の3つの帯域を利用できるが(Wi-Fi 7/6Eでデュアルバンドの製品もある)、Wi-Fi 6以下は2.4GHz帯と5GHz帯の2つの帯域しか利用できない。 もちろん、6GHz帯が使えなければ、2.4GHz帯や5GHz帯を使えばいいので、「つながらない」ということはない。シンプルに使える帯域が増えることで多くの機器をつなげられること、現状は6GHz帯の利用者が少なく空いているので快適に使えるのがメリットだ。 まとめると、Wi-Fiの規格はシンプルに数字が大きい規格が優れている。デュアルバンド(2.4GHz帯+5GHz帯)よりトライバンド(2.4GHz帯+5GHz帯+6GHz帯)が高性能と覚えておけばいいだろう。 ■ 2024年の市場動向。できれば2~3万円の予算を 続いて、全体の動向を簡単に押さえておきたい。 今年、最大のトピックはWi-Fi 7対応モデルの登場だ。昨年末に6GHz帯での320MHz幅利用が法令で認可されたことで、各メーカーからWi-Fi 7対応モデルが投入されてきた。登場当初は5万円以上するハイエンドモデルが中心だったが、現在は2~3万円前後のWi-Fi 7対応普及モデルが追加され、選びやすい状況になってきている。 2~3万円という価格帯は高いイメージがあるかもしれないが、昨今の物価高の影響を考えると認識を改めざるを得ない状況にある。 従来は1万円台中盤がミドルレンジの普及モデルの価格帯だったが、現時点で1万円台だと、Wi-Fi 7対応製品もあるにはあるがエントリークラスとなり、ある程度のスペックダウンを覚悟するか、規格として古いWi-Fi 6E/6対応製品から選ぶか、といった選択肢になる。今後ある程度長く使うならWi-Fi 7をおすすめしたいところで、2万円、できれば余裕をもって3万円の予算を確保して製品を選ぶことをおすすめしたい。 仮に今3万円で購入したとしても、次のWi-Fi 8(IEEE 802.11bn)は2028年以降と予想されている。今Wi-Fi 7対応製品を買い、4~5年間ほど最新規格として使い続けられるとすれば、高すぎはしない、実利の大きな投資と考えていいだろう。 ■ 4つのポイントでWi-Fiルーターを選ぶ それでは、実際のWi-Fiルーターの選び方を紹介していこう。ここでは、次の4つのポイントから、自分に合う製品を絞り込んでいく。 ・メッシュか? Wi-Fiルーターか? ・何台ぐらいの機器を接続するか? ・Wi-Fi7/Wi-Fi 6Eを利用するか? ・10Gbpsのインターネット接続回線を使うか? 各メーカーの主要製品を集めて、4つのポイントで候補を絞り込める表をGoogleスプレッドシートとして用意した。基準となるスライサーを使って、自分の環境に合わせて選択していくことで最終的にいくつかの候補まで絞り込める。完全に1つに絞り込むのではなく、複数候補を表示するので、最後は好みのメーカーやデザインなどで決めるといいだろう。興味がある人は活用してほしい。 ▼Wi-Fiルーター購入ガイド2024 □ポイント1:メッシュか? Wi-Fiルーターか? まずは、メッシュ(メッシュルーター、メッシュシステム)にするか、通常のWi-Fiルーターにするかを検討したい。 メッシュは、複数台のアクセスポイントを組み合わせて利用するタイプの製品で、1台では電波が届かない広い環境や遮蔽物が多い環境で、通信可能な範囲や安定性を向上させられる。似たような役割をする製品にWi-Fi中継機もあるが、メッシュは最初から複数台のセットで販売されるものが主流で、デザインにも凝った製品が多い。 このため、3階建て以上の戸建てや4LDK以上の広い環境、壁の厚いマンションなどではメッシュ対応製品をおすすめする。 だだし、最近はメッシュと通常のWi-Fiルーターで、機能的な違いが事実上なくなりつつある。一般的なWi-Fiルーターでも(中継機でも)メッシュに対応した製品が増えてきており、同一メーカー製品であればメッシュでつながる製品が多いため、メッシュが必要になってから買い増しして、拡張する選択肢もある。 つまり、メッシュかWi-Fiルーターかの選択は、はじめから2台セットで購入するか、まずは1台で様子を見て後から拡張するかの違いとなる。当然、メッシュは2台セットなので価格も高くなるため、予算的な判断も必要になる。 前述したシートで絞り込む場合は、1つめのスライサーでデータを絞り込める。「複数台のアクセスポイントの設置が必要な広い環境(3階以上や4LDK以上)ですか?」の質問で、[はい→メッシュ、いいえ→Wi-Fiルーター、わからない→Wi-Fiルーター]を選択しよう。 □ポイント2:何台ぐらいの機器を接続するか? 次に、家庭内で利用する機器の数を考える。接続する台数が多い場合、それだけ性能の高いWi-Fiルーターを選択する必要がある。 性能を判断する際は、ストリーム数の合計を参考にするといい。ストリーム数というのは、簡単に言えば、同時に通信できる経路の数だ。例えば、「2+2+2」なら、6GHz帯で2ストリーム、5GHz帯で2ストリーム、2.4GHz帯で2ストリームの合計6ストリームの通信が可能な製品ということになる。 それぞれの周波数帯で使えるストリーム数は通常2か4、まれに3で、周波数帯は前述したように2.4GHz、5GHz、6GHzがあるので、これらの組み合わせが多ければ、合計のストリーム数も多くなる。 一方で、スマートフォンやPCなどの機器は、通常、2ストリーム対応となっているので、仮に1台の端末が2ストリームを占有したとすると、6ストリーム対応のWi-Fiルーターなら3台が同時に通信できることになる。 実際にはOFDMAという技術があるのでもっと同時接続台数は増やせるのだが、この値は数字は、必要な性能を判断する目安として扱いやすい。 実際、Wi-Fiルーターの型番にもストリーム数が使われるケースが多い。例えば、バッファローの「WXR9300BE6P」はストリーム数が「6」、NECプラットフォームズの「Aterm WX11000T12」はストリーム数が「12」となる。 同様に型番に使われることが多い通信速度の合計値も、性能を表す指標として使いやすい。基本的に速度の合計値が高いほど、たくさんの機器を高速に接続できると判断していい。 具体的にどれくらいの台数の機器をつなぐかは環境次第だが、PC、スマートフォンだけでなく、ゲーム機やテレビ、レコーダー、さらにエアコン、各種センサー、スマートスピーカー、体組成計といったスマート家電やヘルスケア製品、スマートウォッチなど、Wi-Fiでつながる機器は想像以上に多くなっているはずで、これらの合計を考えて機器を選択する必要がある。 一人暮らしの環境なら10台前後、多くても20台前後だと思われるが、家族が増えると30台、40台と増える可能性が高い。そういった意味では、この判断基準は、ライフスタイルに合わせた選択肢とも言える。 前述したシートで絞り込む場合は、2つめのスライサーでデータを絞り込める。「接続機器(家電なども含む)の合計は?」の質問で、[40台以上→8以上全選択、20~30台→6~8を全選択、10~20台→5~6選択、10台以下→4~5選択]を選択しよう。 □ポイント3:Wi-Fi 7/6Eを利用するか? 続いて、最新のデバイスに対しての興味の度合いで製品を絞り込む。 iPhone 16シリーズ、Pixel 9シリーズ、Snapdragon X Elite搭載PC、Intel Core Ultraシリーズ2搭載PCなど、2024年中盤以降に発売された比較的新しいデバイスは、Wi-Fi 7に対応している。 また、それ以前に発売されたPCやスマートフォンでもWi-Fi 6Eに対応した製品が存在するし、今は手元になくても近々入手する予定がある、というケースもあるだろう。 つまり、最新のPCやスマートフォンの通信性能をフルに発揮させたいのであれば、Wi-Fi 7またはWi-Fi 6Eに対応した製品を選ぶのが適していることになる。 前述したシートで絞り込む場合は、3つめのスライサーでデータを絞り込める。「Wi-Fi 6EやWi-Fi 7に対応したPCやスマホがある。または買う予定はありますか?」の質問で、[はい→Wi-Fi 6E+Wi-Fi 7選択、いいえ→Wi-Fi 6選択、わからない→全選択]を選択しよう。 □ポイント4:10Gbpsのインターネット接続回線を使うか? 最後に、インターネット接続環境によって製品を絞り込む。 最近では最大10Gbpsの速度に対応したインターネット接続サービスも増えてきているので、こうした回線のルーターとして利用する場合は、最低でも2.5Gbps、できれば10Gbpsの有線ポートを搭載した製品を選んでおきたい。 なお、筆者もそうだが、有線重視で絶対にPCも10Gbpsでつなぎたいという場合は、最後ではなく最初にこのポイントの絞り込みをした方がいい。 前述したシートで絞り込む場合は、4つめのスライサーでデータを絞り込める。「10Gbpsの回線を使っている。または使う予定がありますか?」の質問で、[はい→2.5G以上選択、いいえ→2.5G以下選択、わからない→全選択]を選択しよう。 ただし、10Gbpsの有線LANに対応したWi-Fiルーターは、高性能な製品が中心となるため、上記、接続機器の台数(ストリーム数)の選択によっては、2.5Gbps対応や10Gbps対応製品が見つからない場合がある。具体的に言えば、接続する台数を少なくしていると、該当する製品が見つからない可能性があるため、多めの台数まで絞り込みの対象に入れておいてほしい。 絶対に2.5Gbps、10Gbps対応製品が欲しいなら、必然的に高性能かつ高価な製品を選ぶしかなくなる。 ■ 買い替えの時期としては悪くない 以上、Wi-Fiルーターの買い替えの基本や2024年の動向、具体的な製品選びの基準について解説した。 個人的には、いろいろな機器でのWi-Fi 7対応が進み、価格がこなれてきた今は、Wi-Fiルーターの買い替えの時期としては悪くないと考えている。いや、もちろん、もっと待てば安い製品が登場する可能性はあるが、待っている間に快適なネットワークを堪能できるメリットの方が大きい。 各メーカーとも、市場を見据えて力の入った製品をリリースしているので、ぜひ検討してみてほしい。 もちろん、ここで紹介したのは一例であり、人によっては別の機能を重視する人もいるだろう。例えば、初心者であれば設定の引っ越し機能があるかどうかが重要かもしれないし、仕事で使うためにVPNサーバー機能がないと困るという人もいるかもしれない。 今回の選び方では、そうした基準までは考慮していない。あくまでも基本的なスペックのみで絞り込んでいる。まずは大まかに本稿で紹介した4つの項目でいくつかの候補に絞り込み、その後、自分が必要とする機能があるかを確認するといいだろう。チェックする製品の数を減らせるだけでもメリットがあるはずだ。
INTERNET Watch,清水 理史