円安で海外留学はどう変化した? アメリカでの生活費は年300万円
新型コロナウイルスによる行動制限が解除され、渡航者の入国を規制していた国々が再び門戸を開いています。大学生の留学事情に、変化は見られるのでしょうか。気になる「海外留学のいま」に迫ります。 【データ】コロナ禍の留学、人気の国はどこだった?
日本学生支援機構(JASSO)が実施している「日本人学生留学状況調査」によると、2009年度から18年度までの10年間で、海外留学する学生は右肩上がりで3倍以上に増加し、18年度には約11万5千人になっていました。 留学が増えていた理由を、文部科学省を中心とする官民協働の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN(以下、トビタテ)」広報担当の西川朋子さんは、こう話します。 「大学がグローバル化を目指し、留学を必須とする国際系の学部が増えたことや、国や民間の留学生への奨学金が増えたことも後押しとなり、大学生の間で『留学しておいたほうがいいよね』という傾向が高まり、主に夏休みや春休みなどの長期休みを利用した1カ月未満の短期留学が増えました」 ところが、19年12月頃から新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大したことで、20 年度は約1500人にとどまり、前年度比でマイナス98.6%と大幅減。21年度は入国制限の解除が始まり、若干の回復を見せたものの、それまで留学の4分の3を占めていた3カ月未満の短期留学プログラムの再開は遅れ、結果的に長期留学者が多い傾向となっていました。
学費が安いのは?
落ち込んだ留学者数の回復が期待されたのが、23年5月の新型コロナ感染症の5類への移行でした。ところが、今度は円安と世界的な物価高が留学を抑制することになりました。 アメリカの名門大学などへの留学をサポートしているアゴス・ジャパンの留学指導部のディレクター、松永みどりさんは、次のように話します。 「アメリカに留学する場合、円安とアメリカの物価高の影響で、これまで年間150万~200万円で収まっていた生活費が、200万~300万円かかる状況になっています。一般家庭で1年間の支出が50万~100万円も変わるのは家計にとって死活問題です。そのため、海外留学する学生の数がコロナ前の水準まで戻りきれていないのが現状です」 ただし、伸びている地域もあります。 「全国調査は発表まで時間を要するため、22年度以降の正式なデータはまだ出ていませんが、物価高のアメリカが敬遠されている代わりに、ヨーロッパやアジアへの留学が増えている印象です。ヨーロッパも物価は上昇しているものの、多くの国では大学の学費が日本のそれに近く、アメリカほど高くないこともあって人気です。タイやベトナム、マレーシア、インドといったアジア圏は、EU圏同様、学費がアメリカより大幅に抑えられます。渡航費も安く済むうえに、タイのチュラロンコン大学、マレーシアのマラヤ大学をはじめ、世界大学ランキングの上位に入っている大学があります。英語で学べるコースも充実しているため、タイやマレーシアで観光マーケティングなどの専門性を追求する留学生も増えつつあります。また、非英語圏の大学では、学内では英語、学外では現地の日常会話を学べることから、2つの言語を習得できるという点に魅力を感じる学生も多くいます」(トビタテの西川さん)