朝ドラ「虎に翼」で考える認知症介護。寅子夫婦は仕事と介護をいかにして両立できたのか?【親の終の棲家をどう選ぶ?】
問題は夜中の介護
では、百合の介護は通いの家政婦だけで完結できたのか? いくら彼女が優秀だとしても、それは無理だったと思う。認知症の進んだ百合は夜中に家を出て行こうとするようになっていたし、ドラマでは描かれなかったが、晩年に寝たきりになっていたら、おむつ交換など夜中の介護も必須になってくる。家族が交代でやっても、体がもたないのではないだろうか。となると、日中の家政婦だけで、寅子夫婦が仕事と介護を両立できたとは考えにくい。 ドラマでは、百合の最期については「亡くなった」とだけ語られた。在宅で看取ったのだとしたら、住み込みの家政婦を雇うか、複数の家政婦を交代制で雇うことで介護と仕事を続けたのではないだろうか。あるいは在宅を諦め、いわゆる“老人病院”で最期を迎えたか……。いや老人病院が急増したのは昭和48年、老人医療費の自己負担分無料化がきっかけだから、百合の晩年には間に合わなかったと思われる。 住み込みの家政婦と簡単に言ったが、住み込みで介護や家事を行うのは重労働極まりない。最終回では労働基準法についても少し触れられたが、今でも住み込みの家政婦の労働環境はとても良いとは言えない。先日、家政婦かつヘルパーとして住み込みで働いていた女性が亡くなり、東京高裁が労災と認める判決を言い渡した。女性は要介護5の寝たきりの高齢者の家に1週間住み込み、家事や介護を行ったあとに死亡している。7日間の総労働時間は105時間、1日15時間にも上り、夜中は要介護者の部屋で寝ていたという。介護保険制度どころの話ではない。労働基準法の枠外で酷使される人がいることに言葉を失った。 現在も介護保険でのサービスに自費サービスを組み合わせて使う人は少なくはない。また、寅子の家のように家事や介護、看護を長時間お願いするために、介護や家事代行サービス、「プライベート看護」などのサービスを利用する人もいる。今回労災が認められた家政婦のケースもこのサービスのひとつだったと思われるが、これらのサービスは継続して利用しようとすると相当富裕層でないと難しいだろう。それだけの料金を払えるのなら、高価格帯の有料老人ホームに入った方がいいと筆者は思うのだが。 寅子の夫の航一も同様のことを思ったのか。最終回では老いた航一が老人ホームで暮らしているのがうかがわれた。百合の介護経験から、自分が家族の負担になるわけにはいけないと思ったのかもしれない。おそらく資産はたっぷりあるし年金もたくさんもらっていそうなので、高価格帯のホームで手厚いケアを受けているだろう。 老いた姿といえば、寅子の大学時代の同級生、梅子の背が丸まり、動きが鈍くなっていく様子もまた秀逸だった。寅子たちより20歳ほど年上という設定だと思うので、この頃は70代後半から80代というところだろうか。 姑も3人の子どもたちも捨て、遺産相続も放棄して、人生の後半を送った梅子だったが、晩年介護が必要になったとき、どこでどう過ごしたのか気になっている。 取材・文/坂口鈴香 終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。
サライ.jp