髪は膝下まで伸び、歯はボロボロに欠け、身体はガリガリに…14歳から17年間“引きこもり”だった男性(50)が明かす、壮絶な引きこもり生活
手を何回も洗わないと気が済まなくなってしまい…
――精神状態への影響は? 糸井 お風呂に入ってなくて身体は不潔なのに、手を何回も洗わないと気が済まなくなってしまって。強迫性障害の症状だと思うんですけど、心理的な不安や恐怖心からそういう行動をとるようになったのかもしれません。 31歳のときに統合失調症と診断されるのですが、いま思えば、引きこもり生活の前期からその兆候があったように思います。 ――ご家族のことを拒絶されていたそうですが、助けを求めたりはしなかったのですか。 糸井 しなかったし、できなかった。ただ、母に対して、無言の訴えをしたことはあります。ティッシュペーパーの上に欠けた歯のかけらを並べて、差し出したんです。助けてくれとも何も言わずに。「あなたのせいでこうなった、どうしてくれるんだ」という思いが伝わればと。
社会的な支援にたどり着きにくい状況だった
――それに対して、お母さんは何と? 糸井 何も言わなかったし、私のことを医療機関や福祉施設に連れて行こうともしなかったです。 母は中卒で美容師になって、職人のように働いてきた人だから、そういう知識がなかったんだと思います。 ――当時は、今みたいにネットで調べることもできないから、社会的な支援にたどり着きにくい状況だった。 糸井 そうだと思います。当時は、引きこもりという言葉自体もあまり社会に浸透していなかった。それに昔は、自分の子どもを精神科に連れていくことに抵抗がある親は多かったと思うんです。母も「恥ずかしい」みたいな気持ちがあったはずです。
髪が伸び放題になり、歯が欠けた自分が嫌で許せなかった
――当時のご自身の状態は、どのようなものだったと思いますか。 糸井 もう頭がおかしくなっていたと思います。自分の異常性もわかっていました。 鏡を見たら、ヒゲはボーボーだし、歯は欠けてなくなっているし。自分で髪を切らせていないのに、髪が伸び放題になった自分が嫌で、醜くて、許せなくて。自分はまともな人間じゃないと思っていました。
――社会に復帰したいという気持ちは。 糸井 そんなチャンス、自分にはないと思っていました。その当時から、「就職氷河期」とか「派遣切り」といった言葉をニュースで見聞きしていて。高卒や大卒の人でも就職活動で落とされたり、クビになったりしているのに、学歴も職歴もなく、容姿への劣等感も抱いていた自分が社会に出られるわけがないと。 ただ、もし社会に出たら周りについていけるように、勉強だけはしておこうと思って。英和辞書を丸写ししたり、NHK教育テレビで放送されている『NHK高校講座』を見てノートに書き写したりしていました。
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