カプコンの「RE ENGINE」が外部向けに初公開、学生向けにゲーム開発を体験する授業を実施。開発はもちろん、企画資料の提出やスケジュール管理までゲーム制作の“試行錯誤”を体験
カプコンは近畿大学との産学連携により、自社のゲーム開発エンジン「RE ENGINE」を活用したゲーム開発の体験型授業を8月26日(月)から9月6日(金)まで実施している。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 今回初めて外部に「RE ENGINE」を公開し、AWS上にある「RE ENGINE」を活用しながら、ゲームの企画から実装まで、一つのゲームを開発する実習内容を実施。授業ではゲーム開発の基礎に触れながら「RE ENGINE」の具体的な機能を解説する。 そして8月29日(木)、チームによるグループ開発実習が始まり、その初日の模様を取材することができた。「RE ENGINE」を使用したゲーム開発という非常に貴重な機会を通じて、カプコンが学生たちに期待することは何なのか。本記事ではその模様をレポートしていく。 取材・文/Grezzz 編集/anymo ■カプコン独自のゲーム開発エンジン「RE ENGINE」とは まず、「RE ENGINE」とは何なのか、簡単におさらいしておこう。 「RE ENGINE」はカプコンが独自に開発したゲーム開発エンジンだ。実写さながらのフォトリアルな描写が可能なだけでなく、難解な技術を、開発者が扱いやすいよう簡便化することで、よりスムーズな開発環境を実現している。 「RE ENGINE」は、『バイオハザード7 レジデント イービル』で使用することを目指して、2014年に開発が始まった。2017年に初の採用タイトルとして『バイオハザード7』がリリースされた後は、採用タイトルが毎年リリースされ、対応プラットフォームも拡大してきた。 これまでに『モンスターハンターライズ』や『ストリートファイター6』、『逆転裁判456 王泥喜セレクション』、『ドラゴンズドグマ2』など、同社の様々な大型タイトルが「RE ENGINE」によって制作されている。2025年に発売を予定しているシリーズ最新作『モンスターハンターワイルズ』も、「RE ENGINE」によって制作される。 さらに、2023年に行われたカプコンのオープンカンファレンスでは、現在のRE ENGINEにおける様々な課題を解決するため、次世代エンジンとしてコードネーム「REX」の開発も発表されている。 「RE ENGINE」は開発が始まって以来10年以上にわたって、カプコンのゲーム開発の主力を担ってきた。開発効率の大幅な改善と高品質なゲーム開発を可能とし、世界で戦うタイトルを開発するため、現在も進化を続けているのだ。 ■面白さとは「心が動かされる」こと。カプコンが教える「ゲーム制作の心得」 体験型授業は、第1クールから第3クールの3段階で構成されている。学生たちはこれまでの授業内容として、第1クールでRE ENGINEの使用方法をチュートリアルで学習し、第2クールでは『ロックマン』のキャラクターを使用して、基本的なゲーム開発の流れを学習したという。 そして今回我々が取材した第3クールはいよいよ実践編。3人1組のチームとなって、実際に「RE ENGINE」を使用してゲームを制作するという流れだ。 まず実際にゲーム制作に入る前に、グループ開発で必要となるアセット管理やバージョン管理などについての知識や、ゲーム開発の心得などが、カプコンのスタッフから学生たちに伝えられた。 チーム作業をしていると頻繁に起こる「コンフリクト」についても講義があった。上の画像のように、複数人の変更が同時に行われると、問題が発生する。コンフリクトを避ける運営方針は様々なものがあるが、今回は開発期間が短いこともあり、「編集の際に声を掛け合う」というシンプルな方法が採用された。 次にゲーム開発の心得として、面白いゲームを作るのに重要な「コンセプト」について伝えられた。 ゲームの面白さとは何なのか。「絵がきれい」、「操作感がよく爽快感がある」、「ストーリーが良い」、「戦略性がある」などさまざまな要素が挙げられたが、面白いゲームにはこれらの「心が動かす」要素が入っているという。 その上で、コンセプトとは「ゲームプレイを通じてどういう心の動きをさせるか」とスタッフは強調。今回の実習ではチームで話し合ってプレイヤーにどういう心の動きをさせたいかを考え、そのコンセプトの実現のために必要な要素を考え、プログラムの作成や調整などを行うという流れが伝えられた。 コンセプトが決まれば、次はスケジュールの作成に移る。コンセプトから実装に必要な要素を洗い出し、それが終われば、どれをいつまでに終わらせるかという優先度を決める。「間に合わないと分かった時点でチームに相談すること」などは、ゲーム制作に限らず、チームで仕事をする上での重要な心得だろう。 一通りの講義が終わったところで、最後にチーム開発実習での細かなレギュレーションについて伝えられた。今回のチーム開発実習では、1チーム3人に分かれてゲームを制作する。各チームにはカプコンスタッフがチーム担当者として付き、様々な相談に乗ったりアドバイスを行う役目を担う。 実習では、企画資料の提出も必須となっているなど、ゲームの企画・役割分担・スケジュールの立案など一連の流れを通して、ゲーム制作を実践的に体験できる内容となっていると感じた。 一連の説明が終わった後、ゲーム開発がスタートした。各チームでは、どのようなゲームを作るか、操作方法はどうするのかなど、初日から真剣な議論が活発に交わされており、学生たちが真剣な表情で企画を練っていく姿が印象的だった。 カプコンのスタッフたちも、学生たちの熱意に応えるべく、技術的な質問から企画の相談まで幅広い内容に対してアドバイスをし、各所で丁寧にサポートを行っていた。 カプコンの現場で使われている「RE ENGINE」に実際に触れ、ゲーム制作を体験するという経験は、ゲーム業界を目指す学生たちにとって得難い経験に違いない。カプコンと近畿大学の産学連携による今回の試みが、次世代のゲーム業界を担う人材育成に大きく貢献することを、強く感じさせる初日となった。 ■ゲームを面白くするための「試行錯誤のプロセス」を体験してほしい──カプコン 基盤技術研究開発部 基盤開発支援室 室長・伊集院 勝氏インタビュー さらに取材の最後に、カプコンの基盤技術研究開発部 基盤開発支援室 室長の伊集院 勝氏に、今回の「RE ENGINE」を活用した体験型授業に関してお話を伺うことができた。 ──「RE ENGINE」を活用したゲーム開発の体験型授業を始めた経緯や意義についてお聞かせください。 伊集院氏: 弊社は元々、産学連携を強力に推し進めたいと考えており、教育機関の研究発展および、優れた人材の育成に貢献することで、ゲーム業界全体を活性化していきたいという目的があります。 これまでカプコンでは、3度にわたってオープンカンファレンスを開催しており、特に2022年のカンファレンスでは、学生向けに「RE ENGINE」を使用したゲーム開発の疑似体験イベントを行いました。 このイベントは非常に好評だったのですが、2時間という限られた時間もあり、もっと深く学びたいという要望が多く寄せられました。そこで、産学連携の新たなアプローチとして、今回の体験型授業を実施することにしました。 ──今回の体験型授業での「RE ENGINE」の公開方法として、AWS(アマゾン ウェブ サービス)のクラウドサービスを使用したのは何故でしょうか。 伊集院氏: 現場では通常、ハイエンドPCを使用して開発を行っていますが、学生全員に同様のPCを用意するのは負担が大きいため、クラウド環境を活用することにしました。 AWSを利用することで、学生は端末の種類を問わずにリモートでクラウド上のRE ENGINEにアクセスすることが可能です。また、クラウド環境の利点としては、問題発生時に教員と学生が問題を共有して対処できることや、AWSの強固なセキュリティをそのまま活用できるという安全性のメリットもあります。 ──本日までの体験型授業の中で、学生たちの反応として印象に残ったものはありましたか? 伊集院氏: カプコンの内製エンジンということもあり、当初学生たちには「RE ENGINE」が他のエンジンとは全くかけ離れた設計をした、特別なエンジンであるという想像があったようです。 しかし、実際に「RE ENGINE」に触れた学生にその印象を尋ねたところ、「思った以上にUnreal EngineやUnityに似ている」、「驚くほどすんなり使える」という声が多く寄せられました。これは、我々が狙っていた通りの反応でした。 私たちが「RE ENGINE」を自社で作っているのは、一番ゲームを作りやすいエンジンを提供する、というのが目的です。「RE ENGINE」が他のエンジンと大きく異なるわけではなく、使いやすさを重視していることが伝わったことは、良かったと感じています。 ──体験型授業で学生たちに達成してほしい目標や、特に期待することがあれば教えてください。 伊集院氏: 今回の授業では、グループ制作を通じてゲームを作ることを目指しています。その中で、今回の授業でも「ゲームの面白さ」について取り上げられていたと思います。 我々プロの現場でもよく起こることなんですが、仕様書通りにゲームを作り、実際に遊んでみると、大体面白くない。99.99%面白くないんですね。そこで、仕様書通りにできたゲームをいかに面白くするか、試行錯誤を重ねることが求められます。 今回、学生の皆さんにも、このプロセスを経験してもらいたいと考えています。グループで意見を交わしながら試行錯誤を繰り返すことでゲームの面白さを追求し、最終的に面白いゲームを完成させることを期待しています。 ──この体験型授業の成果を踏まえ、今後も同様の産学連携プロジェクトを継続または拡大する予定はありますか? 伊集院氏: 今回の体験型授業を通じて得た知見を基に、今後も同様の試みを実施することは考えています。具体的な形などについてはまだ決定していませんが、詳細が決まり次第、皆様にお知らせしたいと考えています。 (了)
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