改ざんに揺れる日本 “先進国”アメリカの公文書管理制度とは?
再び改ざんが起きないためのルールが重要
一方で、アメリカでも上述のペンタゴン・ペーパーズのような隠ぺいや公文書の改ざんが全くなくなった、というわけではない。 近年では2014年にアリゾナ州フェニックスの退役軍人のための病院で40人ほどの患者が診察待ちの間に死亡したことが発覚したが、その際、診察の遅れが記録に残らないよう、偽の待機者名簿を作成したとされている。この問題で当時のシンセキ退役軍人長官が辞任したほか、待機者名簿の作成に関して透明性を確保するルールづくりが本格化し、現在まで改善策が進められている。 このように今回の日本の問題のようなことは、アメリカでもあり得る話だが、それでも公文書に関する意識が極めて高いのは間違いない。今回の問題がアメリカで伝えられる際は、日本の政権スキャンダルのニュースとしてしか扱われていないが、今後、公文書についての意識の差も焦点になってくるかもしれない。 日本では1959(昭和34)年に、山口県がアメリカの公文書制度を模して公文書管理を始めたような自治体の事例はあるが、国としては、公文書管理や公開に関する法制度自体が始まったばかりだ。特定の政治家や役職人物への批判も重要だが、今回の日本の問題でも「公文書改ざんが今後起きないようにするにはどのような施策が必要になるのか」「さらなる情報公開を進めるには何が必要か」というルールづくりが求められている。
---------------------------------------------- ■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後,ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA),メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『ネット選挙が変える政治と社会:日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著,慶応義塾大学出版会,2013年)