なぜホンダ新型「ヴェゼル」は純正のタイヤ銘柄が増えた? 辛口モータージャーナリストがFFと4WDの走りの進化を検証します
4WDではブレーキトラクション制御を見直し発進性を向上
ちなみに、4WD仕様は足まわり自体には新たに手は入っていないが、もともとヴェゼルは、前後輪をプロペラシャフトで直接繋げている、いわば昔ながらのシステムによる4WDだ。同クラスのライバルでいえば、トヨタの「ヤリスクロス」などの、低出力モーターで後輪を駆動するタイプに対しては、そもそもの駆動力が圧倒的に高い。 低出力モーターでは、発進から30km/h程度までしか4WDとして機能しないのに対して、全車速で4WD性能を発揮可能など、同じ4WDとは言っても性能、機能は段違いなのだが、こうした点を知らない人も多い。 ただし、モーター駆動を行う4WDの強みとしては、緻密な駆動制御を可能にする点で、ミューが左右輪側で複雑に変化するような路面でも、無駄な空転を防ぎ巧みに駆動力に転換するため発進性や安定性は高い。 対して、ヴェゼルの4WDは、今回、ブレーキトラクション制御の見直しを行うことで、低ミュー路などの発進における初期のスリップ率を低減して発進性を向上させたとのこと。いわば、モーター駆動4WDに対しての差異を、少し縮めたということになる。 もともとヴェゼルには、ホンダではアジャイルハンドリングアシストと呼ぶ(ホント、ホンダのネーミングはわかりにくい)、コーナリング時に状況に応じて前内輪にブレーキ制御を行い、車両軌跡が外側に膨らむのを防ぐトルクベクタリング機能が標準で備わるので、合わせてとくに滑りやすい路面での安心感が高まったということだろう。
e:HEVのFFで懸案だったリアの突き上げ感が軽減
さて、最も今回の改良度合いの大きなe:HEVのFF仕様だが、こちらの試乗車のグレードはZだった。タイヤは18インチで新たに採用されたブリヂストン製のアレンザが装着されていた。こちらとしては願ったり叶ったりである。 買い手は、購入時にタイヤ銘柄を選択できるわけではないので、ここにこだわるのは本筋ではないのだが、そもそも乗り心地に課題を抱えていたFFモデルは、それでもミシュランのプライマシー4のサイドウォールのしなやかさに救われていた面もあったと考えている。 それに対してブリヂストンのアレンザは、サイドウォールおよびショルダー剛性は高い方向にあると思えるが、しかし、とくに気になっていたリア側の突き上げ感も薄れているだけでなく、路面からの大入力が入った状況などでの収まり感も悪くなかった。また、従来のピッチング傾向も抑えられているなど、バランスはしっかりとれている。 操舵フィールも、中立域からの切り出しの際の舵が立ち上がっていく際のつながりも素直な感覚で、高速域での座り感、ワインディング等での操舵の自然さなども、これはチューニングを上手く施したと思えるのだった。 今回は4WDの18インチタイヤ装着車に乗る機会がなかったので、サスペンションやステアリング系には手を入れていない中での、新採用のブリヂストン アレンザとのマッチング度合いも知りたいところだったが、こちらはそこまでの必要がなかったということなのだと考えておきたい。