「恋をすると異常な精神状態になる」“完璧な女性”が抱える秘密と男女の関係。柴門ふみWEB初連載作品〈漫画家インタビュー〉
──不倫は「倫理にあらず」という道に外れた行為です。先生は、不倫も恋愛だと思いますか? 柴門:恋に落ちてしまったら、仕方がないですよね。恋って突然訪れるものですし、相手が黙っていたら結婚しているかどうかはわかりません。好きになってしまったら、もうおしまいだと思います。 ただ、たいていの人は、相手が結婚していると知ったら「もう会うのはやめよう」となるものです。そこから一線を越える人と越えない人がいる。それだけの違いかなと思いますね。 でも、不倫関係になると、男性のほうがズルい気がします。離婚してまで、不倫相手と一緒になるのはレアケース。不倫相手には離婚する離婚すると言いつつ、実際はそこまでしないのが大半ではないでしょうか。 ──できれば、妻とも愛人ともうまくやっていきたいんですね。 柴門:そう。要するに、男性は嫌われたくないんですよ。妻にも嫌われたくないし、不倫相手にも嫌われたくない。自分を好いてくれる女性が多ければ多いほど、男性はうれしい。男性自身も、妻も不倫相手も同じくらい好きなんだと思います。 ただし、それは「俺のことを好きなら」という条件付き。もしも妻がつんけんした態度を取れば、好きではなくなると思います。でも、妻が自分のことを大好きなら、絶対に離婚はしないでしょう。「そんなかわいそうなことはできない」なんて言ってね。不倫している時点で、もうかわいそうなことをしているじゃないと思いますけど(笑)。
恋をすると異常な精神状態になる
──今、若い人は恋愛に興味がなく、恋愛ドラマは視聴率が取れないとも言われています。作家活動を続ける中で、恋愛に対する意識の変化を感じることはありますか?
柴門:そうですね。私はドラマや映画はそれほど熱心に観ていませんが、いろいろな方の話を聞くと、確かにみんな恋愛の話をそこまでしませんよね。 ──それはなぜでしょう。気持ちに余裕がないのでしょうか。 柴門:男女問わず、忙しそうですよね(笑)。あとは、コロナ禍がよくなかった気がします。 ──その一方で、マッチングアプリで出会いを求める人は増えているように感じます。 柴門:マッチングアプリを使う人は、結婚相手を探しているんじゃないでしょうか。「恋愛は無駄」「タイパが悪い」と感じつつも、結婚はしたいのでマッチングアプリで相手を探しているのかも。私の周りにも、そういう人は多いですね。 ──それは“恋愛”ではないですよね? 柴門:従来の恋愛ではないと思います。ただ、バブル期以前のほうが間違っていたんじゃないですか? 恋愛のことばかり考えている男女しかいない世界は、やっぱりおかしいですよ(笑)。今みたいに娯楽もなかったので、私の世代はお金がかからない暇つぶしが恋愛くらいしかなかったんですよ。 ──柴門先生は恋をしたほうがいいというお考えですか? 柴門:楽しいこともあれば、つらいこともたくさんあるので、人生経験として一度は味わったほうがいいと思います。 ──恋をすることで、どういう変化が生まれるのでしょう。 柴門:恋をすると、非日常的で異常な精神状態になるわけです。自分はこんなに嫉妬深くはなかったはずなのに、ちょっとしたことで不安になったり、やきもきしたりする。自分のことを再発見できるんですよね。そのうえ「好きだ好きだと言っていたのに、男ってこんなに突然気が変わるんだ」なんてことも学べます。いい学習の機会ですよね(笑)。 ──確かに、今作の主人公・由希も夫・マコトのおかしな提案を受け入れ、本来とは異なる自分を長年演じ続けています。これもある種“異常”な精神状態だったと言えるかもしれませんね。 柴門:本当にそうですよね。おそらく恋をすることで快感物質が出るんじゃないでしょうか。個人的な見解ですが、ある種の薬物に近い物質が出ているような気がして。恋をすると、風景がはっきり見えるし、スッキリした気分になるんですよね。しかも、相手が近くにいないとイライラして禁断症状が出ます。だからこそ、病みつきになる人もいれば、毒にやられて「もうこりごり」となる人もいるんでしょうね。 ──今後、由希たちの関係がどう展開していくのか楽しみです。では、最後に3作品の新連載について、ひと言いただけますでしょうか。 柴門:犬好きの読者から、厳しいご指摘がくるのが怖いです(笑)。連載中もしくは単行本化する時には、3作品の登場人物がどこかでクロスオーバーする仕掛けも考えていけたらと思います。ぜひご期待ください。 取材・文=野本由起 撮影=後藤利江