出発駅で感じる「旅情」の高まり! 旅の醍醐味は計画段階から始まるものだ
旅の手段がもたらす心身効果
旅行において、手段が目的化してしまうことは、それほど問題ではないかもしれない。実際、目的がなくても、旅行は若さを保つために有効な活動であることが、最近の研究で明らかになっている。 2024年8月、豪エディスコーワン大学の研究チームが「Journal of Travel Research」で発表した研究によると、旅行を通じて初めて訪れる場所に身を置くことが、身体活動や社会的交流への参加、さらにはポジティブな感情を生み出し、心身の健康を高める可能性があるという。 適度な身体活動をともなう旅行は、慢性的なストレスの軽減や免疫システムの過剰な活性化を抑える効果があり、自己防衛システムの正常な機能や自己組織化システムの調整を助けるため、アンチエイジングにもつながるとされている。 健康がなければ旅は楽しめないが、気軽に旅を楽しむことが、健康を促進する正のサイクルを生み出すことに繋がる。旅好きな人々の間では、このサイクルが自然と形成されやすいといえるだろう。 また、キャリーケースを引きながら移動するためには体力が必要であり、駅や空港でキビキビと歩く自分があってこその旅だ。 「旅が趣味」という人々の間でも、手段の目的化は広がっており、特にSNS時代では旅行情報が溢れ、その中には“旅行依存症”と呼ばれるケースも見受けられる。
非日常に潜むエゴの罠
米国心理学会では、旅行依存症「ドロモマニア(dromomania)」が定義されており、旅行を優先するあまり、生活や精神面に問題が生じることがあるとされている。旅行が人生の主な活動となり、経済活動などの現実的な側面が軽視されてしまうのだ。また、 「旅の恥はかき捨て」 という言葉が示すように、旅行中の解放感や非日常感に影響されて、普段はしないような行動を旅先でしてしまうリスクもある。旅行のエゴイスティックな性質が引き起こす“落とし穴”に陥らないよう、注意することが必要だ。自分にとっては非日常でも、現地の人々にとっては日常であることを忘れてはいけない。 さらに、仲間と旅行する場合、お互いのエゴイズムが高まり、時にはトラブルになることもある。グループ旅行では、各自の希望が衝突する可能性をあらかじめ考慮しておくことが重要だ。 旅行依存症やエゴイズムといったネガティブな面がある一方で、次の旅行のことを常に考え、年に数回の旅行が心の支えとなっている人も多いだろう。 そして、いよいよ訪れる旅立ちの日、キャリーケースを引きながら空港を歩くその瞬間こそが、実は旅の“クライマックス”なのかもしれない。この瞬間、文字通り自分が主役となり、解放感や自己コントロール感を感じ、本来の自分を取り戻すことができ、煩雑な日常を頭の中から追い出すことができるのだ。 キャリーケースを引きながら空港を歩く自分を実感することこそ、現代人にとっての旅情そのものではないだろうか。