「売り物にならん」から始まった、漆塗りの高級トイレ 借金3億円、血みどろのレッドオーシャンからの脱出
◆「こんなもん、売り物にならんわ!」
――それでBIDOCOROが誕生したわけですか。 ところが、開発が大変でした。 漆を塗るのは蓋の部分ですが、それは技術的に難しくない。 プラスチックと漆は相性がいいからです。 難しかったのは、本体の陶器部分の塗装でした。 これが難しかったのです。 ――何が難点だったのでしょうか。 地元・宇都宮の塗装屋さんと「ああでもない」「こうでもない」と試作を繰り返しました。 カッターで削ったらベリベリと漆がはがれて「こんなもん売り物にならんわ」ということが何度もありました。 最終的に下処理の工夫ではがれやすい問題を解決しました。 ――経営者仲間のつながりが役立っていますよね。 支えられています。 1人じゃ何もできないですよ。 日ごろはただ酒を飲んでいるだけですが、こういうときに力を貸してくれます。 塗装屋さんなんか、仕事で絡むなんて思ってもみませんでした。
◆思い描いていた有名ホテルのスイートルームに
――BIDOCOROの導入実績はどうでしょうか? 2016年にリリースしましたが、実はまだ事業として成り立つレベルではありません。 ただ、箱根の旅館や東京のある有名ホテルのスイートルームに入れてもらっています。 実は、BIDOCOROを開発するのに、どういう所をターゲットにするかブランドイメージを描いたのですが、そのホテルをイメージしていました。 スイートルームに2台入れることができたのはうれしかったです。 ――一般的にトイレは実用性重視の商品かと思いますが、BIDOCOROの狙いはどういったところでしょう? レッドオーシャンからブルーオーシャンに脱却したいという強い思いから生まれた商品です。 漆という日本の伝統工芸技術の魅力を世界に向けて発信したい思いもあります。 また、異業種の経営者仲間が支えてくれたので、やめたら顔向けできなくなってしまいます。
◆人生を賭けた夢がある
――今後の展望をお聞かせください。 BIDOCOROは、年間50台くらいは出荷できる事業規模にしたいと思っています。 ターゲットはホテルや旅館、飲食店です。 幸い、非常にインバウンドが活況で、ホテルや観光施設への設備投資が盛んです。 多くの外国の方の目に触れてもらえたらうれしいですね。 一方で、会社の規模を拡大したいとは思っていません。 受け売りの言葉ですが、「記録よりも記憶に残るような事業」をしていきたいと思っています。 売り上げの規模や営業利益率といった数字的な記録よりも、「さかもとって、こういうことやってたんだ」と記憶に刻まれる会社にしていきたいです。 実は、さらにもう1つやりたい新規事業があります。 ――どのようなアイデアでしょうか。 人生を賭けた1つの夢として、それはオリジナルのシステムキッチンを作ることです。 まだ自分の頭の中に描いているだけで、みなさんに大風呂敷を広げているところですが。