「売り物にならん」から始まった、漆塗りの高級トイレ 借金3億円、血みどろのレッドオーシャンからの脱出
トイレといえば白が定番だが、鮮やかな漆塗りを施した洋式トイレ「BIDOCORO(ビドコロ)」が注目を集めている。高級旅館やホテルのスイートルームに設置され、インバウンドから大人気だ。このトイレを作る会社「さかもと」は、3億円の借金を抱え、社員の8割以上をリストラした「どん底」から復活した経緯がある。3代目として事業承継した坂本英典・代表取締役は、なぜ漆塗りの色鮮やかなトイレに着目したのか。開発秘話を聞いた。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆「1個5円の儲け」では社員を幸せにできない…
――坂本さんの祖父が創業した「さかもと」はどのような会社でしょうか。 水回り設備の商社で、私は1990年代後半に25歳で入社しました。 当時、従業員が20人くらいで、年商が14~15億円ありました。 ところが、業績は厳しくなる一方で、社員の8割以上をリストラしたこともありました。 ――なぜ業績が苦しかったのですか? 大手との価格競争です。 当時、パイプやバルブなど配管資材をメインに取り扱っていましたが、1個運んで5円しか儲からないような商売でした。 絶対に大手には勝てないし、社員を幸せにできないと考えていました。 だから、大手で扱ってないものを事業としてやらなければならない、レッドオーシャンの血みどろの真っ赤な海で戦うのではなくて、誰もまだやったことがないブルーオーシャンを絶対に見つけ出してやるという思いが30代半ばからありました。
◆陶器のまち・常滑と日光東照宮からひらめき
――それで漆加工を施した洋式トイレ「BIDOCORO」を開発したのでしょうか。 ターニングポイントは、愛知県常滑市のINAXライブミュージアムに行ったことでした。 江戸時代末期から明治初期に染付という技法で作られた装飾豊かな小便器が展示されていました。 これを見たとき、「めちゃめちゃクールで格好いいな」と思ったのです。 以来、「そういえば、トイレって今、白しかないよね。バブルのころには20色ぐらいあったのに」という疑問がずっと頭に残っていました。 ――常滑は焼き物のまちで、漆工芸ではないですよね。 そうです。 その後、地元・栃木の日光東照宮で漆の塗り替え作業をやっているのをテレビで見て、実際に日光に足を運んでみました。 そのとき、「漆ってきれいだな。これトイレにできないかな」とひらめきました。 そんなとき、地元の経営者仲間との酒席で、たまたま漆芸家の宮原隆岳さんとお会いしたのです。 「実は東照宮を見て、漆をトイレに塗れたら格好いいと思ったんですよね」と飲切り出すと、宮原さんが「坂本さん、じゃあ塗っちゃうかい?」と言ってきたのです。