「多彩な仕事」をした橋本治は一体何を書きたかった人なのか―橋本 治『対談集-六人の橋本治』武田 砂鉄による書評
橋本治は自分にとって、何でもかんでも書いた人で、それはこの文庫本のカバー裏の内容紹介に書かれている「多彩な仕事」とは、同じようでいてちょっと違う。一体何を書きたかった人なのか。作家の中心軸を定めたがるのは読み手の傲慢だが、そんな規定から軽やかに逃げていた。 先日文庫化された『対談集 六人の橋本治』(橋本治著・中公文庫・1100円)では、一つのテーマに基づいて対話を重ねている。高橋源一郎と短編小説について、浅田彰と日本美術史について、天野祐吉と時評について、といった具合。でも、すぐにはみ出す。そして、読み手を挑発するようなことを言う。 “「人はだいたいばれてるものじゃない。そのばれてることを、何となく小出しにしながらつきあいを成り立たせているわけだから、自分が人にわかられるはずがないという前提で人とつきあうのはおかしいじゃない」(高橋源一郎との対談)” 小説を読み、なんで私たちのことがわかるのかと問われ、こう答えてみせた。 どんなジャンルであっても、「手を出した後で一生懸命頑張る」という鉄則に基づいて仕事をしていく。すると、『ひらがな日本美術史』も『小林秀雄の恵み』も『窯変(ようへん) 源氏物語』も書けてしまった。 「人のリアリティというのは思いもよらない変な要素を持っていることだと思っている」ので、小説で人物を書くときには「特徴を強調するんじゃなくて、変なものを入れ込んでいってそれが自然に収まるようにする」(宮沢章夫との対談)とのこと。 この人は一体何を書きたかった人なのか、との問いを抱えながら読んだが結論は出ない。改めて「まえがき」を読むと、自分は「どっかの舞台で活躍はしているのかもしれないけれど、それとは無関係に不思議なキャラクターを買われてテレビのバラエティー番組に出ている舞台俳優」のようだと分析していた。 何だそれ、と思う。確かに、とも思う。何者だったのか、まだまだわからせない。 [書き手] 武田 砂鉄 1982 年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年秋よりフリーライターに。 著書に『紋切型社会』(朝日出版社、2015年、第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』などがある。 [書籍情報]『対談集-六人の橋本治』 著者:橋本 治 / 出版社:中央公論新社 / 発売日:2024年05月22日 / ISBN:4122075211 毎日新聞 2024年6月15日掲載
武田 砂鉄