「老後」は存在しない…「不老不死」よりも「健康寿命」を延ばすことが重要!iPS細胞の可能性を還暦越えの科学者が語る!
人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか? どんな老後の過ごし方が幸せなのか? 医療はどこまで発展しているのか? ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、「老化研究の最先端」をお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『還暦から始まる』連載第1回
健康寿命を延ばす2つの方法
谷川 山中さんはいま、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の分野で「老化の研究」にも取り組まれていると伺いました。現在、どこまで研究が進んでいるんでしょうか。 山中 僕が上級科学アドバイザーを務めているアメリカの「アルトス・ラボ」というライフサイエンス企業からの受託研究という形で、2022年から「老化研究プロジェクト」を始めました。 いろいろな病気の背景として細胞の老化が共通してあるので、そのプロセスをiPS細胞の技術を用いて解明できたら、病気の種類に関わらず、病気を予防したり進行を止めたり治療したりすることができるのではないかというアプローチです。 歳を重ねるごとに細胞の機能が低下し、病気になりやすくなったり回復が遅くなったりします。将来、細胞の老化を防止できるようになれば、病気予防にもつながるかと思います。 よくアメリカのIT長者たちが「不老不死」の研究に巨費を投じているといったことが言われていますけども、僕自身は不老不死にはまったく興味がなくて、あくまでも健康寿命を延ばすための研究をしています。
平均寿命=健康寿命にするために
谷川 「健康寿命」というのは具体的にどういうことを指すんでしょうか。 山中 健康寿命とは、日常的に医療や介護に頼らずに、自分がやりたいことを自分の力でできる期間のことを指します。健康寿命を延ばすことが、このサイラ(CiRA)が目指していること、というか医学研究の目標の基本はそこにあると思います。 健康寿命を延ばすためにiPS細胞を生かすには、大きく言うと2つの方法があります。日本人の平均寿命はいま、男性が81歳、女性が87歳ぐらいですが、健康寿命はだいたい平均寿命マイナス10歳ぐらいなんです。 じゃあどうして10年の差があるのかというと、歳を取るといろいろな病気やけがをしたりしてしまうからです。がんや認知症、足腰や膝の故障。そうした健康寿命を縮めている一つ一つの病気やけがを研究して、予防はもちろん、治療法を考える。 そうして平均寿命と健康寿命の差を1年でも2年でも縮める。具体的にはiPS細胞を使った再生医療や新しい薬で治療するという方法がまず1つです。その研究を15年以上、ずっと続けています。