「令和のコメ騒動」不足解消でも楽観できない事情…人口減少社会で「農地改革」が進まない
ちなみに、農地の売却には「2022年問題」というのもある。1992年に定められた生産緑地法によって、その期限である30年後の2022年に、農地が大量に売却されるのではないかと懸念されていた。農地として活用されていれば、生産緑地法によって固定資産税の減免措置が受けられる状況にあったのだが、その期限が2022年だったわけだ。ただ再申請によって10年延長になっているが、いずれは大量の農地が売却に向かうと予想されている。
ところが、農地法の壁によって農地の流動性はほとんど向上していない。それどころか、年々耕作放棄した農地が増え続けている。こうした現状を改めていこうというのが、今回の食料・農業・農村基本法の改正だが、農地法の抜本的な改正を予想させるような法改正には至っていない。結局のところは、農地を減らさないための農地法でしかなく、農業を活性化させるための農地法になっていない。 ■緊急時には農業事業者に計画書の提出を義務化?
一方、同基本法の改正に合わせて6月に成立した「食料供給困難事態対策法」だが、政府が重要とする食料品や物資をあらかじめ指定し、世界的な不作などで供給が大きく減少した場合など、生産者に増産や備蓄を求めるという法律だ。いわば有事に備えた食料安全保障体制の整備と言っていいだろう。 今までにも食料の安全確保については、さまざまな政策が存在していたが、既存の体制だけでは対応しきれない事態に備えて、例えばコメや小麦、大豆、その他の植物油脂原料、畜産物、砂糖、といった物資を特定食料として指定し、有事の際には、事業者に対して出荷・販売の調整、輸入の促進、生産・製造の促進を要請することになっている。
この法律には罰則規定もあり、出荷販売業者や輸入業者、生産業者等に対して食料確保の「計画」を届け出る指示を出すことができる。届け出の指示に従わなかった場合には、罰金が科せられ、さらに立ち会い検査等によって特定食料等の在庫を把握することも可能だ。報告の拒否や拒否の報告をした場合にも過料が適用されることになっている。 罰則規定のある法律になったことで、有事の際の食料不足をコントロールする効果を発揮できそうだが、実際にそういう事態になってみないとわからない。重要なことは、これまで輸入だけで何とかなるとしていた政府が、ロシア・ウクライナ戦争などの地政学リスクや気候変動などに直面したことで、海外から食料や肥料、エネルギーが調達できない可能性が出てきたこと。