魚料理を扱う飲食店の“良し悪し”を見分けるポイント 「アラ汁」を出す店では値段の割に美味しい魚が食べられるカラクリ
日本国内に数えきれないほどある、魚料理を扱う飲食店。お金を払って食べるのだから “良店”を見極めたいものだが、なかなか難しいのが現実だ。絶対ハズしたくない場合に、見極め方はあるのか。過去に築地市場の卸売企業に勤務し、現在は東京海洋大学の非常勤講師も務めるおいしい魚の専門家・ながさき一生さんによると、見るべきポイントはズバリ「“アラ汁”の有無」だという。 【写真】すこ~しだけ七味をかけてもウマイ からだが温まる「アラ汁」
なぜ、アラ汁を置く店が“良店”といえるのか。ながさきさんの著書『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋してお届けする。
魚は1匹まるごと仕入れられる
食材としての魚と肉の違いとは何でしょうか。肉質の違い、脂の質の違い、保存方法の違い……様々な違いがありますが、その1つは「魚は、一頭買いが基本である」という点です。 飲食店が肉を仕入れる際、通常は解体後、部位ごとに仕入れます。一方で魚はどうでしょうか。マグロやカジキなどの大型の魚を除いて、基本は1匹まるごと仕入れられてきます。このことが、魚特有の事情を生み出します。 魚を扱う飲食店では、魚を捌いた後のアラを使った「アラ汁」が出てくる場合があります。このアラ汁を置いているお店は、魚という素材の特性をよく分かっているなと思って良いでしょう。そして、値段の割に美味しい魚が食べられるお店であることも多いと思います。 では、なぜアラ汁があると良いのでしょうか。具体的な例でご説明しましょう。
アラの扱いで変わる仕入れと売上のカラクリ
例えば、真鯛を1匹仕入れたとします。A店では、それを捌いて身の部分を刺身にし、3000円で売っているとしましょう。A店では、頭やアラの部分を捨てているので、お店の売上は3000円で終わります。 一方で、B店では、さらに頭をかぶと煮にして700円で売り、アラを味噌汁にして300円で売っているとしましょう。すると、B店の売上は4000円になります。 1匹の鯛が、3000円になるか、4000円になるか。使い方次第で売上が変わってくること分かると思います。そうなると仕入れる魚はどう変わってくるでしょうか。仮に原価率を50%とすると、A店は1500円までしか仕入れに掛けられません。しかし、B店は、2000円まで仕入れに掛けることができます。 仕入れに1500円しか掛けられないA店と、2000円を掛けられるB店。どちらの方が質の良い真鯛を仕入れられるかといえば、高い金額を掛けられるB店であるのは当然です。 しかし、どちらの場合も真鯛の刺身の値段は同じ3000円でした。それなのに、A店は1匹1500円の真鯛、B店は1匹2000円の真鯛と差が生まれています。この差を生んだ要因は、「頭やアラを有効に活用したかどうか」という点にあるのです。 このように、魚は「1匹買いが基本である」がゆえに、その1匹を無駄なく使ってあげることで、飲食店は同じ値段でも良質な魚料理を提供できるようになります。 中には「アラ汁無料」という場合もありますが、食事全体の料金からそのアラ汁代が払われていると考えれば、話は同じです。さらには、ほかの汁物の具を仕入れる無駄を省き、限られたコストでお客に満足感を与えることができるのです。 ※ながさき一生・著『魚ビジネス』より一部抜粋して再構成。 【プロフィール】 ながさき一生(ながさき・いっき)/1984年、新潟県糸魚川市生まれ。株式会社さかなプロダクション代表取締役、東京海洋大学非常勤講師。漁師の家庭で家業を手伝いながら18年間を送る。2007年、東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社で働いた後、同大学院で修士取得。2006年からは魚好きのコミュニティ「さかなの会」を主宰。漁業ドラマ『ファーストペンギン!』では監修も務める。著書に『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。
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