パリオリンピック女子レスリング 藤波朱理の強さの理由を先輩オリンピアンが振り返る
まさに「無敵」だった。 20歳という若さで、オリンピック初出場とは思えない強さとパフォーマンスを披露した女子53kg級の藤波朱理(日体大)は、1回戦から決勝まですべての試合をフォールとテクニカルスペリオリティー(旧・テクニカルフォール)で締めくくり、圧倒的な強さで金メダルを勝ち取った。 【写真】尾﨑野乃香(女子レスリング68kg級・銅メダリスト)フォトギャラリー 相手を淡々と攻略し、お手本のようなタックルや数々の技を適宜仕掛けていく姿は、思わずため息が出るほどに見事で、いつまでも見ていたくなる試合ばかりだった。 4歳の頃から元選手である父・俊一さんのもとでレスリングを始めた藤波は、兄の勇飛もフリースタイル70kg級の世界選手権銅メダリストという、レスリング一家で育った。 それでも、父に無理に強いられたことはなかったという藤波にとって、レスリングは気づけば当たり前で、なくてはならない、自分を最大限に輝かせるものとなっていた。 そんな彼女は高校2年生の時、2020年全日本レスリング選手権でシニア大会デビューしていきなり優勝すると、翌年の全日本選抜選手権でも頂点を勝ち取り、初めて世界選手権への切符を手にした。 藤波の勢いはとどまるところを知らず、初出場の世界選手権では全試合テクニカルフォールの圧倒的な強さで優勝。以降の国内外の大会も無敗が続き、いつしかその連勝記録が注目されるようになった。 かつての絶対女王・吉田沙保里の連勝記録も塗り替え、パリ五輪でも優勝を果たし、いまだ記録更新中の藤波について、「強くなることにすごく貪欲な選手」と話すのは、東京五輪・女子76kg級の皆川博恵さんだ。 「私が自社(クリナップ)所属の選手を指導するため、日体大に行った時のことです。私とは体重差が20kgもあるのに、藤波さんはスパーリングをお願いにきてくれて、とても驚いたのを覚えています」
【伊調馨との息を呑むようなスパーリング】 そして彼女のスパーリング終了後の行動にも、その強さの理由を感じ取ったという。 「ざっくりと『これはどうしているんですか? どう動いたらいいですか?』みたいな質問ではなく、『こういう状態にされることが多かったのですが、これはどういう動きでどういうことを意識してこういう状態にしていたのですか?』と具体的かつ的確な質問をされて、いろんなことを緻密に計算して頭で考えてレスリングしているのだなと、感心した記憶があります」 また。練習の最初から最後まで全力でこなす藤波の姿勢も、とても印象的だったそうだ。 「特に(伊調)馨さんとのスパーリングは、見ているこちらが息を呑むような攻防が展開され、目が離せませんでした。そうした練習の積み重ねが、これまでの連勝記録の礎(いしづえ)となっているのだなと感じています」 藤波は今年3月に左ひじを脱臼し、手術を余儀なくされた。それにより五輪までの公式大会で実戦を経験することも叶わず、本番では本来の藤波の力が発揮できるのか、不安視もされていた。 しかし、そんなことを頭に浮かべたことを恥じるくらい、その心配は杞憂に終わった。誰もがうなるほどの圧勝劇だった。 1回戦から終始冷静で、表情をまったく崩さずに戦っていた藤波。迎えた決勝では華麗なタックルを何度も繰り出し、持ち時間の6分をフルで使うことはなく、相手に10点差をつけてテクニカルスペリオリティーで決着をつけた。 試合終了のホイッスルが鳴ると、藤波はマットに座ったまま両手の拳を握り締めて、天に向かって雄叫びをあげた。今大会、初めて藤浪が感情を露わにした瞬間だった。 そして、弾ける笑顔で勝ち名乗りを受けると、マットサイドに上がってきた父・俊一さんに向かって一目散に駆けていき、飛びついた。 「ぶつかり合ったり、ケンカをすることも本当に多かったんですけど、やっぱり父がいなかったらここにはいないと思うので、本当に、一番感謝したい存在です」