抗生物質が根本治療薬に 筋強直性ジストロフィー【中森雅之山口大学教授に聞く③完】
◇自己判断での使用は厳禁
ーすでにある薬なら、入手することもできますか。 少しでも早く薬を使いたいと思う患者さんやご家族の気持ちは非常によく分かるのですが、承認される前に、自己判断で勝手に飲むことは絶対にしないでください。すでにある薬なので、別の病気で処方してもらうなど、何とかして手に入れようとする人がいるかもしれません。仮に飲まれたとして、そこで例えば死亡や重篤な副作用が出た場合、因果関係がはっきりしなくても、そのために今後の開発ができなくなってしまいます。将来の可能性をつぶさないためにも、勝手に飲むことは絶対にやめてほしいです。 なお、エリスロマイシンには不整脈(QT延長)を誘発する作用もあるので、今回の治験でも、もともと不整脈がひどい人は参加していません。筋強直性ジストロフィーによる不整脈が強い方がエリスロマイシンを服用すると、不整脈が悪化する可能性があるので、正式に承認された後も、適応をしっかり決めて正しく使っていくことが重要です。 ー他の新薬もいろいろ開発されているようですが。 現在、最も治験が進んでいるのは、タイドグルーシブという薬です。アルツハイマーの薬として開発されていたものに、筋強直性ジストロフィーによる中枢神経の作用への効果を期待して、英国で小児を対象に第Ⅲ相まで終えましたが、有効性が示せませんでした。現在、成人を対象に治験をしています。ただし、この薬は中枢神経への働きが主で、骨格筋の症状に対する効果は不透明です。 ほかに、異常な遺伝子に直接働き掛ける核酸医薬が、これから第Ⅲ相に入る段階に来ています。全く新しい薬なので、第Ⅲ相で重篤な副作用が出ないかどうか、安全性に注目が集まっています。 そうした中で、エリスロマイシンは、効果や安全性の問題が第III相試験でクリアされれば、最も早く市販される可能性がある薬です。薬価などまた別の問題が障害になっているため、今の時点ではっきりと時期は申し上げられませんが、一日も早く患者さんに届けられるよう、準備は頑張って進めています。 ー診断はされても治療法もなく、経過観察だけなら病院に行く必要はありますか。 定期的に必要な検査をすることで、心臓や呼吸に対する対応、糖尿病や高脂血症のコントロール、白内障に対する手術など、やるべきことはいろいろあります。病状にもよりますが、病状が安定している人は半年から1年に1回、注意が必要な人は数カ月に1回など、定期的に通院してもらうようにしています。 筋強直性ジストロフィーの平均寿命は約60歳といわれていますが、死因は呼吸不全、誤嚥性肺炎、心臓の突然死が多いとされ、経過観察をしっかりして必要な対応をしていけば、寿命を延ばせる可能性も高くなります。 現在、治療薬がなくても、世界で研究や開発が進んでいるので、いずれ薬が出てくるということを患者さんやご家族の方には知ってほしいです。特に筋強直性ジストロフィーは、これから何年かでいろいろな薬が出てくると期待されるので、希望を持って、それまでの間、できるだけ良い状態が維持できるよう、心がけてほしいと思います。(ジャーナリスト・中山あゆみ)
中森雅之(なかもり・まさゆき) 99年年大阪大学医学部卒業、同付属病院神経内科、00年大阪厚生年金病院神経内科、02年国立刀根山病院神経内科、03年大阪大学大学院医学系研究科博士課程、07年同課程修了(医学博士)。同年米国ロチェスター大学神経学、12年大阪大学医学研究科神経内科学、2023年1月山口大学大学院医学系研究科臨床神経学教授。