抗生物質が根本治療薬に 筋強直性ジストロフィー【中森雅之山口大学教授に聞く③完】
ーエリスロマイシンの治験の結果はいかがでしたか。 新薬の人体への効果や安全性を確認する治験は、第Ⅰ相から第Ⅲ相までに分かれていますが、エリスロマイシンについては第Ⅱ相の治験が終わり、効果と安全性が確認されました。現在、承認申請に向けて、第Ⅲ相の治験の準備に取りかかっているところです。 第Ⅱ相試験では、筋強直性ジストロフィーの患者30人を、プラセボ(偽薬)群と、低用量群、高用量群の三つのグループに分けて6カ月間投与を行いました。この病気の原因となるスプライシングの異常をバイオマーカーにして解析した結果、エリスロマイシンを使った群で、統計学的に明らかに改善されることが分かりました(グラフ左)。さらに、筋肉が傷んだときに出るクレアチンキナーゼ(CK)という酵素が、エリスロマイシンを服用した群の方が低く抑えられました(グラフ右)。 ー具体的にどのような治療効果が期待できますか。 基本的に病気の根本的な原因になっているところを解決する治療薬なので、対症療法ではなく根本的治療と考えています。 脳細胞はいったんダメージを受けると元に戻りませんが、病気の根本的なところを抑えられていると筋力が改善したり、心臓の不整脈が良くなったりして、突然死を防げるようになると思います。強く握った手がすぐに開けない、などの筋強直症状は、まさにスプライシングの異常によりダイレクトに筋肉の興奮を抑えるタンパク質が減っていることが原因なので、エリスロマイシンの働きによって、スプライシング異常を改善すると、抑えられるはずです。 ー抗生物質を長期間飲み続けると、副作用は問題になりませんか。 基本的には生涯、飲み続ける必要がありますが、すでにCOPDなど他の病気で長期の内服療法が確立されています。エリスロマイシン自体に腸管を動かす作用があるので、第Ⅱ相では、その影響で下痢や軽い腹痛が出た人もいましたが、内服を中止するほど重症の方は一切おらず、 続けているうちに全員良くなっていったので、長期投与しても問題はないと考えています。 抗生物質は、長期投与すると耐性菌が出てくるという問題がありますが、すでにエリスロマイシンは他の疾患で長期投与が行われており耐性菌はすでに広く存在しているので、患者数の限られた筋強直性ジストロフィーに対して使用することで、新たに耐性菌を増やすリスクは低いと考えられます。また、エリスロマイシンの耐性菌に効く薬がいくつもあるので、実際なにか問題になることはないと考えています。